病院や施設で長く看護の経験を積んでこられた方の中には、訪問看護ステーションの立ち上げを考え始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その際、まず気になるのが「立ち上げ費用や開業資金として、いくら用意すればよいのか」という点です。
インターネットで調べると、500万円〜1,000万円、800万円〜1,500万円など、幅のある金額が並んでいます。
ただ、前提となる人数や地域が書かれていないこともあり、ご自身の計画にそのまま当てはめるのは難しいところです。
本記事では、介護保険・健康保険の指定を受ける訪問看護ステーションを、法人として立ち上げる場合の費用と資金の考え方を整理します。
病院・診療所が行う訪問看護や、保険を使わない自費の訪問看護は、本記事の対象から外しています。
費用を3つの箱に分けて見積もる方法から、入金までの運転資金、融資、補助金・助成金の確かめ方までを順に見ていきます。
看護師の起業全体の選択肢は、看護師の起業|経験を活かせる事業と資格でできること・できないことで整理しています。
結論|立ち上げ費用は「3つの箱」で見積もる
訪問看護ステーションの立ち上げに必要なお金は、初期費用、開設前の人件費、入金までの運転資金の3つに分けて考えると見通しが立てやすくなります。
総額の目安から入るよりも、ご自身の計画で箱ごとに積み上げるほうが、足りない額と調達の方法が見えてくるためです。
なお、この3つの区分は説明の便宜上の分け方で、公的な分類ではありません。
| 区分 | 主な中身 | 金額を左右する要因 | 主な確認先 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 法人設立の法定費用、指定申請の手数料、事務所の契約・内装、備品・パソコン、車両 | 法人の種類、事務所の場所と広さ、車両を買うか借りるか | 法務局・公証役場、指定を担当する自治体 |
| 開設前の人件費 | 指定を受ける前後の看護職員の給与、社会保険料の事業主負担、同行・研修の期間 | 採用の時期と人数、常勤・非常勤の組み合わせ | 指定を担当する自治体の手引き |
| 入金までの運転資金 | 報酬が入るまでの給与・家賃・車両費など | 利用者が増えるまでの期間、請求の正確さ | 国民健康保険団体連合会、社会保険診療報酬支払基金の案内 |
日本政策金融公庫のサイトに掲載された中小企業診断士のコラムでは、訪問介護・訪問看護を開業するために必要な金額を、地域や人員数によるとしたうえで800万円〜1,500万円くらいとしています(出典:日本政策金融公庫「介護・看護サービス業の創業ポイント」令和6年10月4日掲載)。
この金額は訪問介護と訪問看護をまとめて示したもので、地域や人員数によって変わるとされているため、ご自身の計画で見積もり直すことが前提になります。
見積もりの前に知っておきたい3つの前提
訪問看護ステーションの費用は、制度の仕組みによって「いつ、何に」お金がかかるかがある程度決まっています。
ここでは、見積もりの前提となる3つの点を確認します。
介護保険の指定には、法人の設立が前提になる
介護保険の訪問看護の指定では、申請者が法人であることが基準とされています(介護保険法施行規則第126条の4の2)。
ただし、病院・診療所が行う訪問看護の指定には、この基準は適用されません(同条ただし書)。
健康保険の指定訪問看護事業者の指定でも、申請者は地方公共団体、医療法人、社会福祉法人その他厚生労働大臣が定める者とされています(健康保険法第89条第4項第1号)。
病院・診療所以外の訪問看護ステーションとして介護保険の指定を受ける場合は、法人を設立する費用が最初の出費になります。
法人の種類によって、設立の費用や、相談できる公的な融資の窓口が変わる点にも注意が必要です。
法人の種類の選び方を含む開業までの流れは、訪問看護ステーションの立ち上げ|開業までの8ステップと指定申請で解説しています。
指定を受ける日から、人員の基準を満たす必要がある
介護保険の基準では、訪問看護ステーションに保健師・看護師・准看護師を常勤換算で2.5以上(うち1名は常勤)置くことが求められています(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第60条)。
健康保険の基準でも、助産師を含む看護職員を常勤換算で2.5以上(うち1名は常勤)置くことが求められています(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準第2条)。
指定を受けた日からこの基準を満たす必要があるため、利用者がまだ少ない時期から、立ち上げる方ご自身のほかの看護職員の給与が発生します。
常勤換算の数え方や、管理者を兼ねる場合の考え方は、訪問看護の人員基準|常勤換算2.5の数え方と一人開業の可否で詳しく整理しています。
報酬の入金は、サービスを提供した月より後になる
介護保険の報酬も、医療保険の訪問看護療養費も、サービスを提供した月の翌月10日までに請求する決まりです。
入金はその先になり、介護保険では、サービスを提供した月の翌々月が目安となります。
そのため、開設から数か月は、支払いが先に出ていく状態が続きます。
具体的なスケジュールは、後の「運転資金の見積もり方」で確認します。
立ち上げ費用の内訳|初期費用と開設前の人件費
立ち上げ費用には、法令で金額が決まっているものと、ご自身の計画で決まるものがあります。
前者は事前に正確に把握でき、後者は計画の立て方によって大きく変わります。
ここでは、項目ごとに金額の決まり方と確認先を整理します。
法人設立の法定費用
法人の設立登記には登録免許税がかかり、株式会社・一般社団法人では定款の認証手数料もかかります。
| 法人の種類 | 登録免許税 | 定款の認証手数料 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 資本金の額の1000分の7(15万円に満たないときは15万円) | 資本金の額等に応じて1万5,000円〜5万円 |
| 合同会社 | 資本金の額の1000分の7(6万円に満たないときは6万円) | かからない |
| 一般社団法人 | 6万円 | 5万円 |
| NPO法人 | 非課税 | かからない(所轄庁の認証を受けて設立) |
出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」、登録免許税法別表第一第24号(一)、公証人手数料令第35条、新潟県「NPO法人設立認証後の手続き」
定款の認証は、株式会社(会社法第30条第1項)や一般社団法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第13条)の設立で求められる手続きで、その手数料は公証人手数料令第35条で定められています。
株式会社の定款認証手数料は、資本金の額等が100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円です(公証人手数料令第35条)。
資本金の額等が100万円未満で、発起人の全員が個人かつ3人以下であり、定款に発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載があって、取締役会を置く旨の記載がない場合は、1万5,000円になります(同条第1号)。
このほか、登記申請に使う定款の謄本の手数料(1枚250円)などもかかります(日本公証人連合会「定款の認証に要する費用、株式会社設立の費用等はいくらですか。」)。
定款の印紙税は会社の設立のときに作成される定款の原本にかかり、株式会社・合同会社の定款を紙で作成する場合は4万円です(印紙税法別表第一第6号)。
電子定款による場合は収入印紙を貼付する必要がなく、一般社団法人などの社団法人の定款にも収入印紙は貼付しないとされています(日本公証人連合会「定款の認証に要する費用、株式会社設立の費用等はいくらですか。」)。
NPO法人は所轄庁の認証を受けて設立され、申請書類の一部は受理した日から2週間、公衆の縦覧に供されます(特定非営利活動促進法第10条第2項)。
認証・不認証の決定は、正当な理由がない限り、縦覧期間を経過した日から2か月(都道府県または指定都市の条例でこれより短い期間を定めた場合はその期間)以内に行われます(同法第12条第2項)。
認証後は、認証通知書が到達した日から2週間以内に設立の登記をする必要があるとされています(新潟県「NPO法人設立認証後の手続き」)。
設立の登記申請を代理するのは司法書士の業務であり、本記事では費用の解説にとどめます。
指定申請の手数料
介護保険の指定申請の手数料は、指定を担当する自治体が条例で定めており、金額や扱いは自治体ごとに異なります。
| 自治体 | 新規指定の手数料(訪問看護を含む居宅サービス) | 備考 |
|---|---|---|
| 愛知県 | 30,000円 | 同種の居宅サービスと同時に申請する介護予防サービスは免除 |
| 京都市 | 20,000円 | 介護予防サービスは15,000円。みなし指定は手数料不要。審査の結果、指定できない場合も返還されない |
| 山口県 | 18,000円 | 同種の居宅サービスと同時に申請する介護予防サービスは納付不要 |
出典:愛知県「介護サービス事業所に係る手数料について」、京都市「介護サービス事業者の指定申請等に係る手数料について」、山口県「介護サービス事業者指定申請等に係る手数料について」(2026年9月1日)
健康保険の指定訪問看護事業者の指定は、地方厚生(支)局長が行います。
ただし、厚生労働省令で定める基準に該当する事業者が介護保険の訪問看護の指定を受けたときは、別段の申出をしない限り、健康保険の指定もあったものとみなされます(健康保険法第89条第2項)。
関東信越厚生局の案内でも、介護保険の指定を受けた場合は健康保険の指定申請は不要とされ、指定申請の手数料は「無」とされています(関東信越厚生局「指定訪問看護事業者の指定申請」)。
あわせて、加算などの基準に関する届出の要否は、事業所を管轄する地方厚生(支)局の案内で確認しておきましょう。
事業所を置く自治体の手引きで、手数料の額と納付方法を確認しておきましょう。
事務所の費用
訪問看護ステーションには、事業の運営に必要な広さの専用の事務室と、訪問看護の提供に必要な設備・備品を備えることが基準とされています(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第62条第1項)。
同じ敷地内に他の事業所や施設がある場合は、専用の区画を設けることで足りるとされています(同項ただし書)。
健康保険の基準でも同じく専用の事務室が求められ、他の事業の事業所を兼ねる場合は専用の区画で足りるとされています(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準第4条)。
賃貸の場合は、敷金・礼金、仲介手数料、前家賃、保証会社の費用などが初期費用になります。
利用者の記録を保管する鍵付きの書庫や、相談に使うスペースの間仕切りなど、内装や家具の費用もあわせて見込みます。
自宅を事務所にする場合も、専用の事務室としての要件を満たせるかを、指定を担当する自治体に事前に確認しておきます。
設備・備品と請求の仕組み
パソコン、電話、複合機、請求ソフトなどの事務機器は、開設前にそろえる必要があります。
ITツールの導入に補助金を使う場合は、交付決定の通知を受けてから補助事業を開始する仕組みで、法人の申請には直近の決算書類なども必要になるため、後述の「ICTの導入に使える補助金」もあわせて確認してください。
介護保険の報酬は、電子情報処理組織(伝送)または光ディスク等の電子媒体で審査支払機関に請求する仕組みです(介護給付費及び公費負担医療等に関する費用等の請求に関する命令第2条)。
医療保険の訪問看護療養費は、電子情報処理組織を使用する請求(オンライン請求)で行うものとされています(訪問看護療養費及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令第1条)。
電気通信回線の設備に不具合が生じている場合や、光回線が整備されていない場合などには、あらかじめ審査支払機関に届け出ることで書面による請求ができる経過措置があります(同命令附則第2条)。
健康保険の基準では、利用者がオンライン資格確認による確認を受けられるよう、ステーションごとにあらかじめ必要な体制を整備しなければならないとされています(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準第8条第3項)。
オンライン資格確認に使う端末や回線、電子証明書の準備も、設備費の一部として見込んでおきましょう。
移動手段の費用
訪問には、車、バイク、自転車などの移動手段が必要です。
購入するかリースにするか、何台用意するかによって、初期費用と毎月の費用の配分が変わります。
駐車場、任意保険、燃料費、利用者宅周辺での駐車の確保など、地域の事情によってかかる費用も異なります。
開設前の人件費と社会保険料
指定を受ける日に人員の基準を満たしている必要があるため、看護職員の採用と雇用は開設前に始まります。
開設直後に同行訪問や研修の期間を設ける場合は、売上につながらない勤務時間の給与も見込んでおく必要があります。
法人の事業所で常時従業員(事業主のみの場合を含みます)を使用するものは、健康保険・厚生年金保険の加入が法律で義務づけられており(日本年金機構「事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」、健康保険法第3条第3項第2号、厚生年金保険法第6条第1項第2号)、給与に加えて社会保険料の事業主負担が発生します。
職員を雇用する場合は、労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きと保険料も必要になります。
保険・採用・広告の費用
利用者に対する訪問看護の提供によって賠償すべき事故が起きた場合、事業者は損害賠償を速やかに行わなければならないとされています(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第37条第3項・第74条、指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準第28条第2項)。
この備えとして、損害賠償責任保険への加入を検討しておきましょう。
このほか、求人広告などの採用費や、紹介元となる医療機関・居宅介護支援事業所に渡すパンフレットの作成費も見込んでおきます。
運転資金の見積もり方|入金までの期間と利用者が増えるまでの期間
訪問看護ステーションでは、開設してから報酬が入るまでの期間と、利用者が増えて収支が合うまでの期間が重なります。
運転資金は「何か月分」と一律に決めるより、月ごとの支払いと入金を並べて見積もるほうが、必要な額を具体的につかめます。
介護保険と医療保険の請求・支払いのスケジュール
介護保険の報酬は、各月分を翌月10日までに審査支払機関に請求します(介護給付費及び公費負担医療等に関する費用等の請求に関する命令第3条)。
香川県国民健康保険団体連合会の資料では、介護給付費等の支払日はサービス提供月の翌々月の21日とされ、当日が土日・祝日の場合は銀行の翌営業日の振込とされています(出典:香川県国民健康保険団体連合会「令和7年度集団指導資料」)。
事業所を置く都道府県の国民健康保険団体連合会の案内で、支払日を確認しておきます。
医療保険の訪問看護療養費も、各月分を翌月10日までに請求します(訪問看護療養費及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令第3条)。
国民健康保険団体連合会を通じて支払われる分は、電子情報処理組織による請求の届出をした事業者に対し、原則として請求月の翌月20日までに支払う取扱いとされています(厚生労働省「訪問看護療養費の支払早期化に関する関係者の対応について」令和6年6月19日)。
この通知は国民健康保険団体連合会を通じた支払を対象としており、令和6年7月に請求された分の支払から適用されています。
社会保険診療報酬支払基金を通じて支払われる分の支払時期は、支払基金の案内で確認しておきます。
請求に誤りがあると返戻となり、修正して再請求するまで、その分の入金は遅れます。
利用者の自己負担分は、事業所が利用者から直接受け取ります。
ただし、入金の時期は、事業所が定める請求の時期や支払方法(現金、口座振替、振込など)によって変わり、口座振替の日程によっては、保険から支払われる分と同じ時期か、それより後になることもあります。
資金繰り表では、採用する回収方法に応じた月に入金を置きましょう。
資金繰り表で「残高が最も少なくなる月」を探す
運転資金の額は、資金繰り表を作って、手元の残高が最も少なくなる月を探すと見積もりやすくなります。
手順は次のとおりです。
- 給与・社会保険料・家賃・車両費など、毎月の支払いを書き出す
- 利用者の増え方を、控えめに月ごとに見込む
- 各月の売上を、実際に入金される月にずらして書き込む(保険から支払われる分は、介護保険では提供月の翌々月が目安。利用者負担分は、採用する回収方法に応じた月)
- 月ごとの「入金−支払い」を積み上げ、累計が最も少なくなる月を確認する
- その月の不足額を上回る資金を、自己資金と借入で用意する
以下は、計算の仕方を示すための仮の数字です。
相場や目安を示すものではなく、入金はすべて提供月の2か月後とし、利用者負担分の入金時期の違いや開設前の費用は含めていません。
| 月 | 支払い | その月の売上 | その月の入金 | 累計 |
|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 150万円 | 30万円 | 0円 | −150万円 |
| 2か月目 | 150万円 | 60万円 | 0円 | −300万円 |
| 3か月目 | 150万円 | 100万円 | 30万円 | −420万円 |
| 4か月目 | 150万円 | 130万円 | 60万円 | −510万円 |
| 5か月目 | 150万円 | 160万円 | 100万円 | −560万円 |
| 6か月目 | 150万円 | 180万円 | 130万円 | −580万円 |
| 7か月目 | 150万円 | 180万円 | 160万円 | −570万円 |
この例では、売上が支払いを上回るのは5か月目ですが、手元の累計が最も少なくなるのは6か月目です。
売上が支払いを上回った後も、入金が追いつくまでは残高が減り続けることがある点に注意が必要です。
日本政策金融公庫のサイトに掲載された同じコラムでも、資金繰り表の例が示されています(出典:日本政策金融公庫「介護・看護サービス業の創業ポイント」)。
開設後の資金繰りでつまずきやすい点は、訪問看護ステーションの立ち上げで失敗しやすい8つのパターンでも取り上げています。
報酬の改定も、資金計画に織り込む
訪問看護の報酬は、介護保険・医療保険それぞれの改定によって見直されます。
医療保険の訪問看護療養費は、令和8年度の診療報酬改定にあわせて令和8年6月から改定されています(中国四国厚生局「令和8年度診療報酬改定について」)。
介護保険でも、令和8年6月から介護職員等処遇改善加算が拡充され、それまで加算の対象外だった訪問看護にも加算が設けられています(厚生労働省「介護職員の処遇改善:TOP・制度概要」、社会保障審議会介護給付費分科会資料「令和8年度介護報酬改定について」)。
この加算は職員の賃上げのための仕組みで、取得には要件を満たして申請する必要があるため、人件費の見込みとあわせて確認しておきましょう。
改定のたびに単価や加算の要件が変わることがあるため、資金繰り表もその都度見直しておきましょう。
開業資金の調達方法|自己資金と公的な融資
3つの箱で見積もった額のうち、手元の資金で足りない分は、融資で補うことを検討します。
ここでは、自己資金の考え方と、公的な融資の主な窓口を整理します。
自己資金|退職金や貯蓄を充てるときの考え方
40〜60代で立ち上げを考える場合、退職金や貯蓄を自己資金に充てることを検討される方も多いのではないでしょうか。
その場合は、立ち上げに使う額と、ご自身やご家族の生活費・老後の資金を、あらかじめ分けて上限を決めておくことが大切です。
前述の日本政策金融公庫のサイトのコラムでは、筆者の見解として、総投資額の25%以上くらいの自己資金を確保できるよう努めることを勧めています。
同じコラムでは、自己資金の割合がこれより少なくても融資が受けられる場合はあるとも書かれており、この割合はコラムの筆者の見解として示されたものです。
融資の審査は、事業計画や返済の見通しなどを踏まえて総合的に判断されます。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金
日本政策金融公庫の国民生活事業には、新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした「新規開業・スタートアップ支援資金」があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金10年以内(うち据置期間5年以内) |
| 利率 | 基準利率。ただし、女性の方、35歳未満または55歳以上の方などが必要とする資金は特別利率(原則として土地にかかる資金を除く) |
| 担保・保証人 | お客さまの希望を伺いながら相談 |
出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」、同「新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」
女性の方、35歳未満または55歳以上の方が必要とする資金は、土地にかかる資金を除いて特別利率の対象とされています。
40〜60代の看護師の方では、女性の方や55歳以上の方がこの特別利率の対象とされています。
融資限度額は上限であり、実際の融資額は事業計画や返済の見通しを踏まえて審査で決まります。
法人の種類で変わる公的な融資|福祉医療機構
指定訪問看護事業を行う法人への融資については、非営利法人を独立行政法人福祉医療機構、営利法人を日本政策金融公庫が対象とする整理が、中小企業庁と厚生労働省の確認書で示されています(出典:中小企業庁・厚生労働省「確認書」令和7年12月23日)。
ただし、福祉医療機構が行う物価高騰の影響を受けた施設等に対する長期運転資金に限っては、指定訪問看護事業を行う営利法人も福祉医療機構の融資の対象とされています(同確認書)。
この確認書でいう「公庫」は日本政策金融公庫の中小企業事業本部を指しているため、国民生活事業の取扱いは公庫の窓口で確認してください。
福祉医療機構の医療貸付では、指定訪問看護事業を実施する医療法人、社会福祉法人、医師または看護師等を会員として設立した一般社団法人、厚生労働大臣が定めた営利を目的としない法人などが融資を受けられる方とされています(出典:福祉医療機構「2026年度 医療貸付事業 融資のごあんない」)。
同じ資料では、指定訪問看護事業の開設等に必要な設置・整備資金と、新設に伴い必要な長期運転資金が、それぞれ限度額500万円・所要額(所要資金)の80%以内の範囲で示されています。
申込みは、事業によって福祉医療機構に直接行う場合と、受託金融機関を通じて行う場合があります(福祉医療機構「医療貸付事業 融資のごあんない(パンフレット)」)。
一般社団法人やNPO法人で立ち上げる場合は、法人の要件や資金の種類、融資の条件が当てはまるかを、福祉医療機構の融資相談窓口で確認しておきましょう。
自治体の制度融資
都道府県や市区町村には、信用保証協会の保証を付けて金融機関から借りる「制度融資」があります。
利率や保証料の補助の有無は自治体ごとに異なるため、事業所を置く自治体の商工担当窓口で確認します。
補助金・助成金の調べ方|開設前か開設後かで使える制度が変わる
訪問看護ステーションに使える補助金・助成金は、名称から対象や時期を判断するのではなく、中身で確かめる必要があります。
実施主体、対象者、対象経費、申請できる時期(開設前か開設後か)の4点を、公募要領や要綱で確かめることが大切です。
いずれも年度ごとに内容や受付期間が変わることがあるため、以下は令和8年度(2026年度)時点の例として紹介します。
都道府県が行う訪問看護ステーション向けの補助
都道府県の中には、訪問看護ステーションの開設や、職員の育成を対象とする補助を行っているところがあります。
宮崎県の「訪問看護体制機能強化事業設置促進強化費補助金」は、中山間地域など訪問看護サービスの提供体制が不十分な地域等に新たに訪問看護事業所を開設する事業者に対し、開設までに必要な初期費用を補助するものです(出典:宮崎県「令和8年度訪問看護体制機能強化事業設置促進強化費補助金における対象事業者の公募について」)。
令和8年度は、西米良村・美郷町・諸塚村・椎葉村・日之影町に設置する場合は補助率3分の2以内(上限400万円)、それ以外の地域(宮崎市を除く)に設置する場合は補助率3分の1以内(上限200万円)とされていました。
補助の対象は開設前の費用に限られます。
令和8年度の公募では、補助の対象を、開設日前6か月間に要したもののうち、県の交付決定日から開設日の前日まで(最長令和9年3月31日まで)に要した経費としていました(同公募ページ「補助金の交付対象期間」、宮崎県「訪問看護体制機能強化事業設置促進強化費補助金交付要綱」第4条第1項)。
開設日前6か月以内の支出であっても、交付決定日前に要した経費は補助の対象にならないとされています。
補助を受けたい経費は、交付決定を受けた後に契約・支出できるよう、準備の順番を組み立てておく必要があります。
開設の期限や、対象にならない経費(登記や指定申請の代行手数料、収入印紙の購入費用、建物の取得やリフォームの費用など)も定められています。
令和8年度の募集は、申請額が予算額を上回ったため受付が終了しています(2026年7月31日更新)。
東京都の「令和8年度東京都新任訪問看護師育成支援事業」は、訪問看護未経験の看護職を雇用・育成する訪問看護ステーションに対し、人件費等を補助するもので、令和8年度は6月26日までに申請フォームへの登録が求められていました(出典:東京都福祉局「【補助金】令和8年度東京都新任訪問看護師育成支援事業」)。
令和8年度の補助対象事業者の要件には、開設から1年以上経過している都内の訪問看護ステーションであることなどが挙げられています。
このように、開設前の経費を対象とするものもあれば、開設から一定の期間がたったステーションを対象とするものもあります。
事業所を置く都道府県の介護保険・在宅医療の担当課のページで、その年度の事業を確認しておきましょう。
雇用に関する国の助成金(雇用関係助成金)
厚生労働省の雇用関係助成金には、キャリアアップ助成金など、職員の雇用や処遇改善に関する制度があります。
雇用関係助成金を受給するには、各助成金の要件に加えて、雇用保険適用事業所の事業主であることなどの共通の要件を満たす必要があります(出典:厚生労働省「雇用関係助成金共通要領」令和8年4月8日現在)。
キャリアアップ助成金では、各コースの実施日の前日までに「キャリアアップ計画」を提出する必要があるとされているため、職員を雇う前や処遇を変える前に要件を確認しておくことが大切です(出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」)。
雇用関係助成金の申請書類の作成や提出の代行は、社会保険労務士の業務範囲に関わるため、本記事では制度の紹介にとどめます。
ICTの導入に使える補助金
請求ソフトや記録システムなどのITツールの導入には、中小企業基盤整備機構の「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)が使える場合があります。
事務局に登録されたITツールを、IT導入支援事業者のサポートを受けながら申請する仕組みで、交付決定の通知を受けてから補助事業を開始できるとされています(出典:デジタル化・AI導入補助金2026「新規申請・手続きフロー詳細」)。
法人の交付申請には、履歴事項全部証明書のほか、直近分の法人税の納税証明書と、直近分の貸借対照表・損益計算書が必要で、代替書類は認められないとされています(出典:デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領(通常枠))。
事務局のよくある質問では、開業したばかりの事業者について、交付申請時の必要書類を用意できない場合は申請できないとしています(出典:同「よくあるご質問(通常枠)」)。
設立したばかりの法人では、開設時の導入費用に使うことを前提にせず、申請できるかを事前に事務局へ確認しておきましょう。
申請できる場合も、交付決定の時期と開設の日取りを突き合わせてから契約すると安心です。
2026年の通常枠は、6次締切分の交付申請期限が2026年10月30日、交付決定日が2026年12月10日(予定)とされています(同「通常枠」)。
交付申請には、GビズIDプライムの取得とSECURITY ACTIONの宣言が要件とされており、GビズIDの公式案内では、審査にかかる時間はオンライン申請で最短即日、書類申請で最大1か月とされています(出典:GビズID「申請アカウントの選択」)。
オンライン申請にはマイナンバーカードと対応するスマートフォンが必要なため、申請方法も含めて早めに準備しましょう。
それ以降の締切や翌年度の公募の有無は、事務局のサイトで確認してください。
補助金・助成金は、資金計画の「収入」に入れない
補助金・助成金は、採択や支給が決まるまで受け取れるかが分からず、予算の上限に達すると受付が終わることもあります。
宮崎県の交付要綱では、補助金は精算払により交付するとされています(宮崎県「訪問看護体制機能強化事業設置促進強化費補助金交付要綱」第11条第1項)。
そのため、補助金・助成金は資金計画の収入には入れず、受け取れた場合に手元の資金を補うものとして考えておくと安心です。
40〜60代の看護師が資金計画で確かめたい5つのこと
立ち上げの資金計画は、事業の数字だけでなく、ご自身とご家族の暮らしの計画とも重なります。
ここでは、計画を立てる前に確かめておきたい点をチェックリストにまとめます。
- 退職の時期と、立ち上げ期間中の家計:勤務先を辞める時期と、開設までの準備期間の生活費をどうまかなうか
- 開設後しばらくのご自身の報酬:役員報酬を抑える場合の家計への影響。役員報酬の決め方は税金や社会保険料にも関わるため、税理士や社会保険労務士に確認する
- 借入の保証と家族への説明:融資で保証人を求められた場合の対応と、ご家族の理解。日本政策金融公庫には経営者保証免除特例制度などもあるため、保証の扱いは窓口で相談できる
- 残高が最も減る月を越えられるか:資金繰り表で見つけた月の不足額を、自己資金と借入で上回れるか
- 撤退を考える目安:資金・利用者数・人員について、どうなったら休止や廃止を考えるかを先に決めておくか
よくある疑問
立ち上げの費用と資金について、気になりやすい点を3つ取り上げます。
Q. 自己資金はいくらあれば始められますか?
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では、利用できる方を、新たに営もうとする事業について適正な事業計画を策定しており、その計画を遂行する能力が十分あると認められる方に限るとしています(日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」)。
創業計画書の提出などを通じて事業計画の内容が確認され、審査の結果によっては希望に沿えないこともあるとされています。
日本政策金融公庫のサイトのコラムでは、筆者の見解として総投資額の25%以上くらいの自己資金を目安に挙げつつ、これより少なくても融資が受けられる場合があるとしています。
Q. 個人事業主として小さく始めれば、費用を抑えられますか?
介護保険の訪問看護の指定では、申請者が法人であることが基準とされています(介護保険法施行規則第126条の4の2)。
病院・診療所が行う訪問看護はこの基準の対象外ですが、それ以外の訪問看護ステーションとして介護保険の指定を受ける場合は、法人の設立費用を見込む必要があります。
健康保険の指定訪問看護事業者の指定でも、申請者は地方公共団体、医療法人、社会福祉法人その他厚生労働大臣が定める者とされています(健康保険法第89条第4項第1号)。
法人の種類と立ち上げの手順は、訪問看護ステーションの立ち上げ|開業までの8ステップと指定申請で解説しています。
Q. 立ち上げると、経営者の年収はどのくらいになりますか?
法人の経営者の収入は、法人が決める役員報酬であり、事業の収支や人員の規模によって変わります。
公的な指標としては、介護保険のサービスを対象とした厚生労働省の「介護事業経営実態調査」「介護事業経営概況調査」で、訪問看護を含むサービスごとの収支差率が公表されています。
収支差率は、介護サービスの収入額と支出額の差を収入額で割った割合で、事業所の経営状況をみる指標です。
経営者個人の年収とは別の指標のため、ご自身の報酬は事業計画の中で検討することになります。
まとめ
訪問看護ステーションの立ち上げ費用は、初期費用、開設前の人件費、入金までの運転資金の3つに分けて見積もると、必要な額と足りない額が見えてきます。
法人設立の登録免許税や定款認証手数料、指定申請の手数料は法令や自治体の条例で決まっているため、事前に確認できます。
報酬の入金はサービスを提供した月より後になり、介護保険では提供月の翌々月が目安となるため、資金繰り表で残高が最も少なくなる月を確かめておくことが、運転資金の見積もりの要になります。
開業資金の融資は、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金のほか、法人の種類によっては福祉医療機構の融資も選択肢になります。
補助金・助成金は、開設前か開設後かで使える制度が変わり、年度ごとに内容も変わることがあるため、収入として当てにせず、要綱で確かめながら活用を検討してみてください。
まずは、ご自身が考えている事業所の規模で、3つの箱それぞれの金額を書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は2026年10月時点の法令・制度に基づき作成しています。
融資・補助金・助成金の条件や受付期間は年度ごとに変わることがあるため、最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
指定申請の手続きや個別の事案については、指定を担当する自治体の窓口や専門家へのご相談をおすすめします。
よこぜき行政書士事務所

