はじめに

病院や施設で長く看護をしてきた方の中には、地域で自分たちの考える訪問看護を届けたいと、訪問看護ステーションの立ち上げを考え始める方もいらっしゃいます。

ただ、法人をつくり事務所を用意しても、それだけで保険を使った訪問看護を始められるわけではありません。

介護保険や医療保険を使って訪問看護を行うには、原則として、行政から「指定」を受ける必要があります。

この記事では、立ち上げの全体像を次の3点を軸に整理します。

  • 保険を使って訪問看護を行うには、原則として介護保険と健康保険の指定が必要です
  • 介護保険の指定では、申請者が法人であることが国の基準です(病院・診療所が行う訪問看護は除かれます)
  • 申請先・申請の締切・事前相談の時期は自治体ごとに異なるため、指定を受けたい日から逆算して準備します

本記事で扱うのは、病院・診療所以外の事業所として新しく開設する訪問看護ステーションです。

病院・診療所が行う訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの地域密着型サービス、保険を使わない自費の訪問サービスは対象外としています。

看護師の起業全体の中での位置づけは、次の記事で整理しています。

看護師の起業|経験を活かせる事業と資格でできること・できないこと

訪問看護ステーションの立ち上げに必要な「指定」とは

訪問看護ステーションの立ち上げは、介護保険・健康保険の「指定」を受けることがゴールです。

指定を受けることで、保険を使った訪問看護を提供し、報酬を請求できるようになります。

まずは、訪問看護ステーションの法律上の位置づけと、2つの指定の関係を確認しておきましょう。

訪問看護ステーションとは

訪問看護は、法律上、居宅で療養している方に対して看護師などが行う「療養上の世話又は必要な診療の補助」とされています(健康保険法88条1項、介護保険法8条4項)。

対象となるのは、主治の医師が一定の基準に当てはまると認めた方です。

このうち、病院・診療所以外の事業所が行うものを、介護保険の基準では「指定訪問看護ステーション」と呼んでいます(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準60条1項1号、以下「居宅基準」)。

介護保険と健康保険、2つの指定

訪問看護は介護保険と医療保険(健康保険など)の両方で提供されるサービスのため、指定も制度ごとにあります。

制度指定する者主な根拠
介護保険都道府県知事(指定都市・中核市では市長。条例で市町村が担う地域もあり)介護保険法70条・115条の2・203条の2
健康保険厚生労働大臣(窓口は地方厚生局)健康保険法88条・89条

介護保険では、要介護の方への「訪問看護」と、要支援の方への「介護予防訪問看護」について、それぞれ指定を受けます(介護保険法70条・115条の2)。

指定都市・中核市に事業所を置く場合は、都道府県ではなくその市が指定の事務を行います(介護保険法203条の2、地方自治法施行令174条の31の4・174条の49の11の2)。

このほか、大阪府のように、条例によって一般の市町村に指定の事務を移している地域もあるため、申請先は事業所の所在地の自治体で確認してください。

健康保険の指定は、介護保険の指定を受けたときに、あわせて受けたものとみなされます(健康保険法89条2項)。

ただし、別段の申出をしたときは、このみなしは適用されません(健康保険法89条2項ただし書)。

また、このみなしは、看護職員の員数と管理者が健康保険の基準(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準2条・3条)を満たす場合に限られます(健康保険法施行規則75条の2)。

関東信越厚生局も、介護保険の指定を受けた場合は、別段の申出がない限り健康保険の指定申請は不要と案内しています。

保険を使った訪問看護は、指定を受けた日から始められる

指定は、申請の内容が基準を満たしているかを行政が確認したうえで行われます。

保険を使った訪問看護を提供できるのは、指定を受けた日からです。

神戸市や岡山市のように、指定日を原則として毎月1日としている自治体もあります。

指定が必要なケース・別の扱いになるケース

どの指定が必要になるかは、誰が、どの制度を使って訪問看護を行うかで変わります。

ここでは、代表的な4つのケースに分けて整理します。

介護保険・医療保険を使って訪問看護を行う場合

新しく訪問看護ステーションを開設し、介護保険・医療保険を使って訪問看護を行う場合は、前の章で紹介した指定が必要です。

介護保険の指定を受けると、健康保険の人員の基準を満たす場合は健康保険の指定もあわせて受けたものとみなされるため、介護保険の指定申請を行えば、両方の保険で訪問看護を行う形になります。

健康保険の指定を受けない場合は、別段の申出をする手続きがあります(健康保険法89条2項ただし書)。

病院・診療所が訪問看護を行う場合

病院・診療所が健康保険の保険医療機関の指定を受けたときは、一定の居宅サービスについて、介護保険の指定もあったものとみなされます(介護保険法71条1項)。

岡山市の手引きでも、保険医療機関の指定を受けている病院・診療所は、訪問看護の指定があったものとみなされると案内しています。

この記事では、病院・診療所以外の訪問看護ステーションを対象としています。

保険を使わない訪問サービスだけを行う場合

介護保険・医療保険を使わず、利用者が費用の全額を負担する訪問サービスだけを行う場合は、ここで説明している保険の指定の対象にはなりません。

ただし、看護師の業務に関する法律上のルールは保険の有無にかかわらず適用されるため、事業の設計には別の確認が必要です。

生活保護・難病などの公費を使う利用者を受ける場合

利用者の中には、生活保護や難病の医療費助成など、公費を使って訪問看護を受ける方もいらっしゃいます。

こうした方に訪問看護を行うには、介護保険・健康保険とは別に、それぞれの制度の指定が必要になることがあります。

制度指定の扱い根拠
生活保護(介護扶助)介護保険の指定を受けると、別段の申出がない限り指定を受けたものとみなされる生活保護法54条の2第2項・別表第二
生活保護(医療扶助)都道府県知事などの指定を受ける生活保護法49条、同法施行令4条
難病の医療費助成都道府県知事などの指定医療機関の指定を受ける難病の患者に対する医療等に関する法律5条・14条
自立支援医療都道府県知事などの指定(指定自立支援医療機関)を受ける障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)54条2項・59条1項、同法施行令36条

医療扶助の指定の対象には、健康保険法の指定訪問看護事業者と、介護保険の指定を受けた訪問看護事業者が含まれます(生活保護法49条、同法施行令4条)。

自立支援医療の指定の対象にも、同じく健康保険法の指定訪問看護事業者と、介護保険の指定を受けた訪問看護事業者が含まれます(障害者総合支援法59条1項、同法施行令36条)。

窓口も制度ごとに異なり、たとえば福岡県では、訪問看護ステーションの生活保護法の指定申請を県が受け付け、申請窓口を福祉事務所としています。

申請先と様式は、事業所を置く自治体の案内で確認してください。

指定の要件|法人・人員・設備・運営・欠格事由

指定を受けるには、申請者・人員・設備・運営の基準を満たし、欠格事由に当たらないことが必要です。

介護保険の基準は、国の基準をもとに都道府県などの条例で定められているため、最終的には事業所を置く自治体の基準で確認します(介護保険法70条2項・3項、74条)。

ここでは国の基準を中心に要点を整理します。

申請者は法人であること

介護保険法は、申請者が都道府県の条例で定める者でないときは指定をしてはならないとし、その条例は厚生労働省令で定める基準に従うと定めています(介護保険法70条2項1号・3項)。

その基準は、次のとおりです。

法第七十条第三項の厚生労働省令で定める基準は、法人であることとする。ただし、病院等により行われる居宅療養管理指導又は病院若しくは診療所により行われる訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション若しくは短期入所療養介護に係る指定の申請にあっては、この限りでない。

(出典:e-Gov法令検索「介護保険法施行規則」126条の4の2)

介護予防訪問看護の指定にも、同じ内容の基準があります(同規則140条の17の2)。

健康保険の指定では、申請者が「地方公共団体、医療法人、社会福祉法人その他厚生労働大臣が定める者」であることが求められます(健康保険法89条4項1号)。

地方公共団体・医療法人・社会福祉法人以外の者が健康保険の指定を直接申請する場合は、告示に該当する者として、あらかじめ地方厚生局長の認定を受ける手続きがあります(関東信越厚生局)。

介護保険の指定によって健康保険の指定がみなされる場合は、この申請自体が不要です。

法人の種類には、株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人(特定非営利活動法人)、医療法人、社会福祉法人などがあります。

社会福祉法人・NPO法人・医療法人などについては、事前に定款の認可(認証)を受ける必要があると案内している自治体もあります(北九州市)。

株式会社と合同会社の違いは、次の記事で解説しています。

合同会社のメリットとデメリット|株式会社との違いを分かりやすく解説

人員の基準|管理者と看護職員

国の基準では、看護職員を常勤換算方法で2.5以上置き、そのうち1名は常勤でなければならないとされています(居宅基準60条1項1号イ・2項、指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準2条)。

看護職員に含まれる資格は、介護保険の基準では保健師・看護師・准看護師で、健康保険の基準ではこれに助産師が加わります。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、事業所の実情に応じた適当数とされています。

管理者は、専らその職務に従事する常勤の者で、原則として保健師または看護師です(居宅基準61条)。

健康保険の基準では助産師も含まれ、どちらの基準にも、やむを得ない理由がある場合の例外が定められています(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準3条)。

東京都は新規指定の留意事項で、管理者を看護師または保健師に限ると案内しています。

管理上支障がない場合は、管理者が同じステーションの他の職務や、他の事業所・施設等の職務に従事することも認められています(居宅基準61条1項ただし書)。

「一人で始めたい」と考えている方は、この基準をどう満たすかが出発点になります。

設備の基準

事業所には、事業の運営に必要な広さの専用の事務室と、訪問看護の提供に必要な設備・備品を備えます(居宅基準62条1項、指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準4条)。

同じ敷地内に他の事業所がある場合などは、専用の区画を設けることで足りるとされています。

国の解釈通知では、事務室について、利用申込みの受付や相談等に対応するのに適切なスペースを確保するものとしています(「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」平成11年老企第25号)。

事務室の広さや設備の詳細は、自治体の手引きで確認してください。

運営の基準

運営面では、事業所ごとに運営規程を定めることが求められます(居宅基準73条)。

運営規程に定める事項は、次の8つです。

  • 事業の目的及び運営の方針
  • 従業者の職種、員数及び職務の内容
  • 営業日及び営業時間
  • 指定訪問看護の内容及び利用料その他の費用の額
  • 通常の事業の実施地域
  • 緊急時等における対応方法
  • 虐待の防止のための措置に関する事項
  • その他運営に関する重要事項

このほか、訪問看護計画書・報告書の作成や主治の医師との連携、秘密保持、苦情処理、事故発生時の対応などの基準があります。

感染症や災害が起きても業務を続けるための業務継続計画の策定、感染症の予防、虐待の防止のための措置、重要事項の掲示(書面の備え付けで代えることも可)とウェブサイトへの掲載(原則)も、訪問看護に準用されています(居宅基準74条・30条の2・31条・32条・37条の2)。

欠格事由

基準を満たしていても、申請者が欠格事由に当たる場合は指定を受けられません。

主なものは次のとおりです(介護保険法70条2項4号以下、健康保険法89条4項)。

  • 申請者が拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるなどしていない
  • 保健医療・福祉に関する法律などの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わるなどしていない
  • 指定を取り消され、一定の期間を経過していない
  • 社会保険料などを、法律で定める要件に当たる形で滞納している

法人の場合は、役員などが該当していないかも確認されます(介護保険法70条2項10号など)。

申請時には、欠格事由に該当しない旨の誓約書を提出します(介護保険法施行規則116条1項12号)。

指定の可否は、申請内容をもとに行政庁が個別に判断します。

開業までの流れ|8つのステップ

立ち上げの準備は、指定を受けたい日(指定日)から逆算して進めます。

申請の締切や事前相談の時期は自治体ごとに異なるため、最初に事業所を置く自治体の手引きを確認することが近道です。

ここでは、準備の順番を次の8つのステップに分けて紹介します。

  1. 地域と事業の方針を決める
  2. 自治体の手引きを入手し、事前相談を予約する
  3. 法人を設立する
  4. 事務所を決める
  5. 管理者と看護職員を確保する
  6. 書類を作成して申請する
  7. 審査を経て指定を受ける
  8. 指定の前後に行う届出

ステップ1 地域と事業の方針を決める

どの地域で、どのような利用者を中心に、どのような体制で訪問看護を行うかを決めます。

地域の高齢者人口や医療機関、居宅介護支援事業所の状況を調べておくと、事業計画や採用計画の土台になります。

ステップ2 自治体の手引きを入手し、事前相談を予約する

事業所を置く都道府県・指定都市・中核市などのウェブサイトから、訪問看護の指定申請の手引きと様式を入手します。

申請の前に、事前相談(事前協議)を求めている自治体があります。

時期の目安は自治体によって異なり、神戸市は事業開始予定日の2か月半前までに書類を作成して事前相談を申し込むよう、北九州市は申請書の提出期限の月の前月までに事前協議を行うよう案内しています。

岡山市のように、設計コンサルタントや建築事業者だけでの事前相談は受け付けないとしている自治体もあります。

東京都では、申請前に管理者または法人代表者が新規指定前研修を受講する必要があると案内しています。

ステップ3 法人を設立する

法人がない場合は、法人を設立します。

定款の目的は、自治体の手引きで求められる記載を確認してから決めておくと、後から目的を変更する手間を避けられます。

すでに法人がある場合は、定款の目的に訪問看護の事業が含まれているかを確認します。

設立の登記を専門家に依頼する場合、登記申請の代理は司法書士の業務です。

定款の作成は、行政書士・司法書士が扱う業務です。

ステップ4 事務所を決める

事務所は、設備の基準を満たせるかを確かめてから契約します。

岡山市のように、新規指定の前に図面協議などの事前協議を行う自治体もあるため、物件の候補が決まった段階で図面を持って相談しておくと、契約後のやり直しを避けやすくなります。

ステップ5 管理者と看護職員を確保する

管理者と看護職員を確保し、雇用契約を結びます。

申請では、管理者の免許証の写しや、従業者の勤務の体制及び勤務形態を記載した書類を提出します(介護保険法施行規則116条1項8号・11号)。

岡山市は、申請の時点で必要な人員が確保できていることと、基準に適した設備・備品の設置が完了していることを求めています。

看護職員を雇用する法人の事業所は健康保険・厚生年金保険の適用事業所となるため(健康保険法3条3項2号、日本年金機構)、社会保険と労働保険の手続きが必要になります。

これらの手続きを専門家に任せる場合は、社会保険労務士が担う業務です。

ステップ6 書類を作成して申請する

手引きに沿って申請書類を作成し、期限までに提出します。

岡山市は、新規指定の申請期限を指定日の前々月末日(末日が閉庁日の場合は翌開庁日)としています。

介護保険の指定申請は、国の「電子申請・届出システム」で提出することとされています(介護保険法施行規則165条の7)。

各自治体は、令和8年3月31日までに受付の準備を完了することとされています(同規則附則43条)。

岡山市は、原則として同システムでの提出を求め、利用にはGビズIDが必要と案内しています。

やむを得ない事情がある場合の扱いなど、提出方法の詳細は事業所を置く自治体の案内で確認してください。

申請に手数料がかかる自治体もあり、北九州市は審査手数料を市の納付書で納めるよう案内しています。

ステップ7 審査を経て指定を受ける

申請後、書類の審査や補正を経て、指定の可否が判断されます。

岡山市の手引きでは、審査に約1か月かかる流れが示されています。

指定されると、指定通知書が届きます。

東京都のように、申請書の提出後に人員や名称などの申請内容に変更が生じる場合は直ちに相談するよう求め、原則として指定日での変更はできないとしている自治体もあります。

ステップ8 指定の前後に行う届出

指定を受ける前後には、指定申請とは別の届出があります。

  • 介護給付費算定に係る体制等の届出(加算を算定するには事前の届出が必要で、指定申請とあわせて提出を求める自治体もあります)
  • 地方厚生局への届出(近畿厚生局は、みなし指定を受ける場合でも24時間対応体制加算などの基準に関する届出は別途必要と案内)
  • 業務管理体制の届出(介護保険法115条の32、同法施行規則140条の40)
  • 生活保護・難病などの公費の指定(該当する利用者を受ける場合)
  • 報酬を請求するための準備(請求ソフト、国民健康保険団体連合会への手続きなど)

業務管理体制の届出では、法令遵守責任者の氏名などを遅滞なく届け出ます(介護保険法施行規則140条の40第1項)。

逆算スケジュールの例

岡山市の手引き(令和8年9月改訂)の期限を、10月1日に指定を受ける場合に当てはめると、次のようになります。

時期主な手続き(岡山市の例)
8月末日まで事前相談(図面相談など)を済ませ、申請書類を提出
9月審査・受理、指定通知書の送付
10月1日指定(毎月1回、1日付け)

申請書には法人の登記事項証明書、事務所の平面図、従業者の勤務体制などを添えるため、法人設立・物件・採用は申請期限までに整えておく必要があります(介護保険法施行規則116条1項4号・6号・11号)。

全体の期間は、法人をすでに持っているか、採用がどこまで進んでいるかによって大きく変わります。

申請書類と申請先

申請に必要な書類は、法令で定められた記載事項をもとに、自治体ごとに様式が用意されています。

ここでは、介護保険の指定申請で求められる事項と、制度ごとの申請先を整理します。

主な申請書類

訪問看護の指定を受けようとする者は、次の事項を記載した申請書または書類を、事業所の所在地を管轄する都道府県知事に提出します(介護保険法施行規則116条1項)。

号記載事項・書類
1事業所の名称及び所在地
2申請者の名称、主たる事務所の所在地、代表者の氏名・生年月日・住所・職名
3事業の開始の予定年月日
4申請者の登記事項証明書又は条例等
5病院・診療所又はその他の訪問看護事業所の別
6事業所の平面図
7利用者の推定数
8管理者の氏名・生年月日・住所、免許証の写し
9運営規程
10利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
11従業者の勤務の体制及び勤務形態
12誓約書
13その他指定に関し必要と認める事項

13号の「その他」として、岡山市は、資格証の写し、雇用契約書の写し、専用設備等の写真、建物の登記事項証明書または賃貸借契約書等の写し、損害賠償への対応が可能であることが分かる書類などを求めています。

あわせて、介護給付費算定に係る体制等に関する届出書の提出を求める自治体があり、東京都は加算を算定する場合に、岡山市は新たに指定を受ける場合に提出を求めています。

制度ごとの申請先

申請・届出の窓口は、制度ごとに異なります。

制度申請・届出先の例
介護保険都道府県(指定都市・中核市は市。条例で市町村が担う地域もあり)
健康保険地方厚生局(介護保険の指定でみなされる場合は申請不要)
生活保護都道府県・市(福祉事務所が窓口の例あり)
難病・自立支援医療都道府県・市などの担当課

東京都のように、申請の受付や事前相談を外部の団体(東京都福祉保健財団)が担っている例もあります。

費用の目安

開業にかかる費用は、法人の種類や事務所、人員の規模によって変わります。

ここでは、法定費用と手数料、資金計画の考え方に絞って整理します。

法定費用と手数料

株式会社・合同会社の設立登記には、資本金の額の1000分の7の登録免許税がかかり、最低額は株式会社15万円、合同会社6万円です(登録免許税法別表第一)。

株式会社は、公証人による定款の認証が必要で、手数料がかかります。

指定申請の手数料は自治体によって異なり、健康保険の指定申請(地方厚生局)は手数料なしと案内されています(関東信越厚生局)。

開業資金と運転資金の考え方

開業資金には、事務所の契約費用、設備・備品、車両、開設前の人件費などがあります。

報酬が入金されるまでの運転資金も、あわせて見込んでおきます。

介護保険の報酬は、サービスを提供した月の翌月10日までに請求します(介護給付費及び公費負担医療等に関する費用等の請求に関する省令3条)。

岡山市の手引きでは、国民健康保険団体連合会の審査を経て、サービス提供月の翌々月末に支払われると案内されています。

請求がエラーになると、支払いを受けられない場合もあるとされています(同手引き)。

指定を受けた後の義務と手続き

指定を受けた後も、届出や更新、基準を守り続けるための手続きが続きます。

開業前に全体を知っておくと、運営の体制を考えやすくなります。

変更・休止・廃止の届出

事業所の名称や所在地などに変更があったとき、休止した事業を再開したときは、10日以内に、指定を受けた自治体(都道府県・指定都市・中核市など)へ届け出ます(介護保険法75条1項)。

事業を廃止・休止しようとするときは、その1か月前までに届け出る必要があります(同条2項)。

健康保険の指定についても、名称・所在地などの変更や、事業の廃止・休止・再開があったときは、10日以内に地方厚生局へ届け出ます(健康保険法93条、関東信越厚生局)。

6年ごとの指定の更新

介護保険の指定は、6年ごとに更新を受けなければ効力を失います(介護保険法70条の2第1項)。

岡山市のように、更新の対象となる事業所に個別に通知を送るとしている自治体もあります。

人員の基準を守り続けることと、運営指導

指定後も、人員・設備・運営の基準を満たし続ける必要があります。

看護職員の退職などで常勤換算2.5を下回らないよう、採用や勤務の計画に余裕を持たせておくことが大切です。

都道府県知事や市町村長は、必要があると認めるときは、事業者に報告を求めたり、事業所に立ち入って検査したりすることができます(介護保険法76条1項)。

掲示・研修などの日常の義務

重要事項の掲示やウェブサイトへの掲載、業務継続計画に関する研修・訓練なども、運営の中で続けていく義務です(居宅基準74条・30条の2・32条)。

40〜60代の看護師が立ち上げを考えるときの確認ポイント

病院での経験が長い40〜60代の看護師の方にとって、訪問看護ステーションの立ち上げは、経験を地域で活かせる選択肢の一つです。

一方で、経営者として事業を担うことになるため、ご自身の役割や働き方を先に考えておくことが大切です。

ここでは、立ち上げを考え始めた段階で確認しておきたい点を整理します。

管理者として現場に立つか、代表として経営に回るか

立ち上げる看護師の方が管理者になるのか、法人の代表として経営に専念するのかで、準備の内容が変わります。

管理者は常勤で、原則として専らその職務に従事する必要があるため、経営と管理の両方を一人で担う場合は、時間の配分を具体的に考えておく必要があります。

代表を別の方が務め、看護師の方が管理者になる形もあります。

訪問看護の経験がなくても管理者になれるか

前述の国の解釈通知では、管理者は「医療機関における看護、訪問看護又は訪問指導の業務に従事した経験のある者である必要がある」とされています。

病院での看護の経験も、この経験に含まれます。

あわせて、管理者としての資質を確保するために、関連機関が提供する研修等を受講していることが望ましいとされています(同通知)。

訪問看護の現場を知るために、立ち上げ前に訪問看護ステーションで働いてみるという選択肢もあります。

緊急時の体制と、ご自身の体力・家族の状況

運営規程には、緊急時等における対応方法を定める必要があります(居宅基準73条6号)。

夜間や休日の連絡・訪問の体制は、介護保険の緊急時訪問看護加算や医療保険の24時間対応体制加算を算定するかどうかによっても、求められる内容が変わります。

管理者の方が夜間の連絡を一人で受け持つ体制にするかどうかは、ご自身の体力や家族の状況も含めて検討しておきたい点です。

仲間と専門家の役割を分ける

人員の基準を満たすには、一緒に働く看護職員が必要です。

立ち上げの段階から、出資や役割分担について、共同で立ち上げる方と話し合っておくことが大切です。

手続きを専門家に依頼する場合は、法人設立の登記は司法書士、税務は税理士、労働保険・社会保険の手続きは社会保険労務士というように、業務の範囲が分かれています。

指定申請の書類作成を依頼する場合も、依頼先が扱える業務の範囲を確認しておきましょう。

勤めながら準備を進める場合

勤務先を辞める前に準備を始める場合は、勤務先の就業規則で兼業や競業についての定めを確認しておきましょう。

管理者は常勤でステーションの職務に従事する必要があるため、退職の時期は指定日から逆算して決めることになります。

立ち上げでつまずきやすい点

立ち上げの準備では、手続きの順番や時期の見通しが甘いと、開業の時期が遅れることがあります。

ここでは、事前に知っておきたい4つの点を挙げます。

  • 申請の締切と事前相談の時期を見落とす: 締切は自治体ごとに異なるため、手引きを最初に確認します
  • 人員が申請時までにそろわない: 勤務体制の書類を申請時に提出するため、採用は早めに進めます
  • 物件を契約してから基準に合わないと分かる: 契約前に図面を持って相談します
  • 報酬の入金までの資金を見込んでいない: 入金までの時間差を資金計画に入れておきます

よくある疑問

訪問看護ステーションの立ち上げについて、よくある疑問をまとめます。

Q. 看護師1人で訪問看護ステーションを立ち上げられますか?

国の基準では、看護職員を常勤換算で2.5以上、うち1名は常勤で置くこととされています。

国の解釈通知では、従業者1人あたりで数えられる勤務時間は、常勤の従業者が勤務すべき時間数が上限とされています。

そのため、立ち上げる方ご自身のほかにも、看護職員を確保する計画が必要です。

Q. 個人事業主のままでも開設できますか?

介護保険の指定では、申請者が法人であることが国の基準とされています。

ただし、病院・診療所が行う訪問看護の指定については、この基準は適用されません(介護保険法施行規則126条の4の2ただし書)。

病院・診療所以外の訪問看護ステーションとして立ち上げる場合は、法人の設立から準備を始めることになります。

Q. 准看護師や理学療法士でも立ち上げられますか?

法人の代表者になることと、ステーションの管理者になることは、分けて考える必要があります。

管理者は、原則として保健師または看護師(健康保険の基準では助産師を含む)とされているため、准看護師や理学療法士の方が立ち上げる場合は、管理者となる保健師・看護師の確保が必要です。

准看護師の方は、看護職員の員数には含まれます。

Q. 立ち上げまでどのくらいの期間がかかりますか?

期間は、法人をすでに持っているか、人員や事務所の確保がどこまで進んでいるかによって大きく変わります。

申請の締切は自治体ごとに異なり、岡山市の手引きを当てはめると、10月1日に指定を受けるには、事前相談を済ませたうえで8月末日までに申請書類を提出する流れになります。

まずは事業所を置く自治体の手引きで締切を確認し、そこから逆算して計画を立てましょう。

Q. 自宅を事務所にできますか?

国の基準では、事業の運営に必要な広さの専用の事務室(同じ敷地内に他の事業所がある場合などは専用の区画)が求められます。

自宅の一部を使う場合も、この基準を満たせるかどうかがポイントになるため、物件を決める前に平面図を持って自治体に相談してください。

Q. 介護保険と医療保険の両方を申請する必要がありますか?

介護保険の指定を受けると、健康保険の人員の基準を満たしていれば、別段の申出をしない限り、健康保険の指定も受けたものとみなされます(健康保険法89条2項)。

ただし、医療保険の加算などに関する基準の届出は、みなし指定の場合でも地方厚生局へ別途行う必要があると案内されています(近畿厚生局)。

まとめ

本記事では、訪問看護ステーションの立ち上げについて、指定の仕組みから開業までの流れ、指定後の手続きまでを整理しました。

主なポイントは次のとおりです。

  • 保険を使って訪問看護を行うには原則として介護保険と健康保険の指定が必要で、介護保険の指定を受けると、健康保険の人員の基準を満たす場合は健康保険の指定もみなされる
  • 介護保険の指定では、申請者が法人であることが国の基準(病院・診療所が行う訪問看護は除く)
  • 人員は看護職員が常勤換算2.5以上・うち1名常勤、管理者は原則として保健師・看護師
  • 申請先・申請の締切・事前相談・研修の有無は自治体ごとに異なるため、手引きを最初に確認し、指定日から逆算する
  • 指定の前後には加算の届出や業務管理体制の届出、公費の指定などが続き、介護保険の指定は6年ごとに更新する

病院で培ってきた看護の経験は、地域での訪問看護にも活かせるものです。

まずは事業所を置きたい地域の手引きを読み、ご自身が担う役割と準備の期間を書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。


※本記事は2026年10月時点の法令(e-Gov法令検索で確認)と、厚生労働省・地方厚生局・各自治体の公表資料に基づき作成しています。

※指定の可否は、申請内容に基づいて行政庁が個別に判断します。

※基準や手続きは改正されることがあり、自治体によって運用も異なるため、申請前に事業所を置く自治体の担当窓口で最新の情報をご確認ください。

※個別の事案については、手続きの内容に応じた専門家へのご確認をおすすめします。

よこぜき行政書士事務所