会社を辞めて起業することを考え始めると、最初に立ち止まるのが「お金」ではないでしょうか。
いくら用意すればよいのか、足りなければどこから借りるのか。
ところが、この二つだけを調べていると、抜け落ちやすいものがあります。
会社が半分を負担してくれていた保険料や、退職にともなって扱いが変わる住民税です。
50代の起業では、事業に出ていくお金だけでなく、「これまで自動的に処理されていたお金」が自分の手元に移ってきます。
本記事では、50代の起業で動くお金を4つに分けて整理します。
一つひとつの制度を深く掘るのではなく、何を・どの順番で確認すればよいかという全体像をお伝えします。
なぜ50代の起業では「お金」が最大の不安になるのか
50代で起業を検討されている方の不安は、「資金が足りるか」という一言で語られがちです。
ただ、不安の中身はもう少し違うところにあります。
見えていない支出があるかもしれない、という感覚です。
ここでは、その感覚がどこから来るのかを2つの角度から見ていきます。
会社が負担していたものが自分の負担に変わる
会社にお勤めの間、社会保険料は給与から天引きされていますが、その全額を自分で払っているわけではありません。
厚生年金保険について、日本年金機構は保険料を「事業主と被保険者とが半分ずつ負担します」と説明しています(出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」2024年8月9日更新)。
健康保険についても、全国健康保険協会は退職後の任意継続の保険料について次のように案内しています。
退職後は事業主負担分も負担することとなりますので、退職時の健康保険料の2倍となります。ただし、上限があります。
(出典:全国健康保険協会「任意継続」2026年9月12日確認)
この上限について、同協会は「ただし、退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた場合は、標準報酬月額は32万円で計算します」としています(出典:同上)。
この上限額は毎年度定められるもので、32万円は令和8年度の額です(出典:全国健康保険協会「【健康保険】令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について」令和7年12月10日)。
つまり、在職中に事業主が負担していた分はなくなりますが、保険料の算定に使う標準報酬月額には上限が設けられています。
住民税も、負担のしかたが変わるお金です。
会社員の方は給与から毎月天引きされる形(特別徴収)で納めているため、年間でいくら納めているかを意識する機会があまりありません。
退職後に残っている税額の扱いは、退職した時期や本人の申出によって、自分で納める形(普通徴収)に切り替わる場合と、最後の給与や退職金等からまとめて差し引かれる場合に分かれます。
どちらになるかは後ほど整理しますが、いずれにしてもこれまで見えていなかった金額が見えるようになるという点は共通しています。
「やり直せる年数」が判断の重みを変える
もう一つは、年齢に固有の事情です。
20代や30代であれば、事業がうまくいかなかったとしても、働いて取り返すための年数が残っています。
50代の場合その年数は短くなるため、投じる金額の上限を先に決めておくことの意味が大きくなります。
ここで気をつけたいのは、これを「だから50代の起業は不利だ」と受け取らないことです。
年数が短いということは、判断を先送りしないほうが有利だということでもあります。
必要な情報を早めに揃えておけば、迷っている期間そのものを短くできます。
50代の起業で動くお金を4つに分けて整理する
50代の起業で動くお金は、事業に出ていくお金、手取りに関わるお金、負担のしかたが変わるお金、外から入れられるお金の4つに分けて考えると見通しが立ちます。
以下の分類は、説明の便宜上この記事で整理したものであり、法令や公的な制度上の区分ではありません。
それぞれの箱について、この記事のどこで扱うかも示しておきます。
| 分類 | 主な中身 | いつ意識することになるか | 本記事での該当箇所 |
|---|---|---|---|
| ①事業に出ていくお金 | 開業費用・運転資金・当面の生活費 | 準備期から開業直後 | 開業にいくらかかるのか |
| ②手取りに関わるお金 | 所得税・住民税など | 退職した年から翌年以降 | 税金は「いつ・何を」払うことになるのか |
| ③負担のしかたが変わるお金 | 健康保険・年金 | 退職の翌日から | 健康保険・年金の各章 |
| ④外から入れられるお金 | 融資・補助金・給付 | 準備期から | 退職時のお金/外から資金を入れる方法 |
この表の「いつ意識することになるか」はおおまかな目安です。
実際の時期は、退職の時期や事業の始め方によって前後します。
4つのうち、準備段階で見落とされやすいのは②と③です。
①の開業費用は誰もが調べますが、②の住民税は退職時と翌年に、③の保険料は退職の翌日から動くため、開業の計画を立てる段階では視野から外れやすいという構造があります。
もう一つ、この4つを並べると見えてくる違いがあります。
①と④は自分で金額を決めたり動かしたりできる部分が大きいのに対して、②と③は制度によって決まり方が定められているという点です。
言い換えると、②と③は交渉によって金額を下げられるものではなく、制度にそって計算される性質のお金です。
ただし、まったく動かせないわけではありません。
たとえば、青色申告特別控除や小規模企業共済等掛金控除のように申告や加入によって課税所得が変わる仕組み、国民年金保険料の免除制度や前納による割引、健康保険の3つの入り口の選択など、要件を満たす場合に負担が変わる仕組みが用意されています。
そのため、②と③は「調べても仕方がないお金」ではなく、①の予算を固める前に見積もったうえで、使える仕組みがあるかを確認するお金と考えるのが現実的です。
なお、50代の起業全体の流れ(何をするか、手続き、個人事業主か法人かなど)については、50代の起業|始め方とお金・仕事選びを一から整理で一から整理しています。
開業にいくらかかるのか——「平均○○万円」の読み方
開業費用について調べると、「平均○○万円」という数字がすぐに見つかります。
この数字は参考になりますが、そのまま自分の必要額として受け取ると判断を誤ることがあります。
ここでは、公表されている調査の数字を「自分の数字」に翻訳するための読み方を整理します。
平均値だけを見ない
開業費用については、公的な金融機関の調査が公表されています。
日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円でした(出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」2025年12月5日公表)。
同じ調査では、金額帯別の分布もあわせて公表されています。
平均値と中央値という2つの数字だけでは、回答がどの金額帯に集まっているかまでは分かりません。
必要額を見積もるときは、平均値ではなく金額帯別の分布のほうを手がかりにすることをおすすめします。
そして、この調査の数字を読むうえで最も大切なのは、誰を対象にした調査なのかです。
同調査は、日本政策金融公庫国民生活事業が2024年4月から同年9月にかけて融資した企業のうち、融資時点で開業後1年以内の企業8,517社(不動産賃貸業を除く)を対象としています(出典:同上)。
調査は2025年8月に実施されており、回答した企業の開業からの経過月数は平均15.5カ月と公表されています(出典:同上)。
つまり、同公庫から融資を受けた企業の数字であり、融資を利用せずに開業した方は対象に含まれていません。
なお、開業時は自己資金だけで始め、その後に融資を受けた企業は対象に含まれます。
「開業費用」と「調達した金額」は別の数字
もう一つ混同されやすいのが、開業費用と資金調達額の違いです。
同じ調査では、資金調達額の平均は1,219万円、その内訳として自己資金が平均279万円、金融機関等からの借入が平均827万円と公表されています(出典:同上)。
開業費用と資金調達額は、それぞれ別の設問として集計された数字です。
ここから読み取れるのは、開業費用として示される金額と、実際に手当てすることになる金額は同じではないということです。
生活費は別枠で数える
事業からの収入が生活費をまかなえるようになるまでには、通常いくらかの期間がかかります。
その間の家計を何か月分まかなえるかを、開業費用とは別の数字として持っておくことをおすすめします。
この「何か月分」に、退職後に新たに発生する健康保険料と国民年金保険料を含めておくことが大切です。
会社を辞めると健康保険はどうなるのか
会社を辞めると、勤務先を通じて加入していた健康保険の資格を失います。
その後の入り口は大きく3つあり、保険料の決まり方がそれぞれ違います。
この「決まり方が違う」という点が、比較を難しくしている最大の理由です。
3つの選択肢は、算定の土台がそれぞれ違う
まず、3つの選択肢の位置づけを並べておきます。
| 選択肢 | 手続きをする先 | 保険料の土台になるもの |
|---|---|---|
| 健康保険の任意継続 | 退職前に加入していた健康保険の保険者 | 退職時の標準報酬月額(上限あり) |
| 国民健康保険 | お住まいの市区町村 | 世帯の状況と前年の所得 |
| ご家族の被扶養者 | ご家族が加入する健康保険の保険者 | 本人の保険料負担はなし(収入要件あり) |
注目していただきたいのは、右側の列です。
任意継続は退職時の報酬、国民健康保険は前年の所得、被扶養者はこれからの見込み収入と、見ている時点がそれぞれ違います。
同じ方が同じタイミングで検討しても結果が入れ替わるのは、この違いによるところが大きいのです。
なお、任意継続には加入要件と申請期限があり、加入できる期間も定められています。
協会けんぽの場合は「退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あること」「退職日の翌日から20日以内に手続すること」が要件とされ、被保険者期間は2年間とされています(出典:全国健康保険協会「任意継続」2026年9月12日確認)。
勤務先が健康保険組合に加入していた場合は取扱いが異なることがあるため、加入していた健康保険にご確認ください。
国民健康保険は「全国一律の金額」ではない
国民健康保険は、市区町村が運営しています。
厚生労働省は、国民健康保険料(税)について世帯単位で算定し、応益分・応能分の各種類を計算して合計するものとしたうえで、具体的な算定方法は各市町村の条例などで定められていると説明しています(出典:厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」2026年9月12日確認)。
ここから分かるのは、保険料の額を全国共通の式で出すことはできないということです。
インターネット上の試算例は参考程度にとどめ、お住まいの市区町村の案内でご確認ください。
もう一つ50代の方に関わりが深いのが、算定の土台が前年の所得である点です。
会社員として働いていた年の所得が反映されるため、退職直後の保険料は、その後の事業の状況とは連動しないことがあります。
ご家族の被扶養者になる場合の収入要件
配偶者などが会社にお勤めの場合、その被扶養者になるという選択肢もあり、日本年金機構は収入要件を次のように案内しています。
年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満
(出典:日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」2026年7月13日更新)
ここで注意したいのが「年間収入」の意味です。
同機構は、この年間収入について次のように説明しています。
過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。
(出典:同上)
つまり、判定に使われるのはこれからの見込みです。
起業したばかりで収入が読みにくい時期に、この見込みをどう示すかが実務上の論点になります。
なお、同居の場合に収入が被保険者の半分以上であっても、被保険者の年間収入を下回り、世帯の生計の状況から被保険者が生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者となる場合があるとされています(出典:同上)。
個人事業主の場合に経費をどこまで差し引けるかも、加入する健康保険によって取扱いが異なることがあるため、ご家族が加入している健康保険の保険者にご確認ください。
50代で起業すると年金はどうなるのか
健康保険と並んで判断を左右するのが年金です。
退職して個人事業主になると、厚生年金保険の被保険者ではなくなります。
その後は原則として国民年金の第1号被保険者となり、保険料を自分で納めることになります。
ただし、配偶者が会社員や公務員として厚生年金保険や共済組合等に加入している場合は、その扶養に入る第3号被保険者に該当することがあります。
日本年金機構は第3号被保険者を「第2号被保険者に扶養されている配偶者の方で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の方」と説明しており、あわせて「厚生年金保険の加入要件にあてはまる方は、厚生年金保険および健康保険に加入することになるため、第3号被保険者には該当しません」としています(出典:日本年金機構「国民年金の『第1号被保険者』、『第3号被保険者』とは何ですか。」2024年8月19日更新)。
第3号被保険者に該当する場合、国民年金保険料を個別に納める必要はありません。
ここでは、保険料の水準と、確認しておきたい手順を押さえます。
国民年金保険料は定額で、世帯に2人分かかることがある
厚生年金保険の保険料は報酬に応じて決まりますが、国民年金保険料は定額です。
日本年金機構は、この金額について次のように案内しています。
国民年金保険料の金額は、1カ月あたり17,920円です(令和8年度)。
(出典:日本年金機構「国民年金保険料」2026年4月1日更新)
この金額は年度ごとに定められるため、ご検討の時点の金額を公式の案内でご確認ください。
50代の方が見落としやすいのが、この保険料が世帯で2人分になる場合があるという点です。
配偶者がこれまでご自身の扶養に入って第3号被保険者だった場合、ご自身が厚生年金保険の被保険者でなくなることにともなって配偶者も第3号被保険者ではなくなり、2人分の国民年金保険料が発生することがあります。
一方で、第1号被保険者・第3号被保険者はいずれも20歳以上60歳未満の方が対象とされているため、ご自身や配偶者が60歳に達している場合の扱いは異なります(出典:同上)。
なお、保険料を納めることが経済的に難しい場合には、申請により保険料の納付が免除される制度があります。
日本年金機構は、この保険料免除制度とあわせて保険料納付猶予制度も案内していますが、納付猶予制度は「20歳以上50歳未満の方で、本人・配偶者の前年所得が一定額以下の場合」を対象とするものです(出典:日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」2026年8月3日更新)。
50代の方が確認することになるのは免除制度のほうですので、名称を取り違えないようご注意ください。
あわせて、保険料をまとめて前払いする前納の仕組みも用意されており、同機構は前納について「まとめて前払いすると割引が適用されるのでおトクです」と案内しています(出典:日本年金機構「国民年金保険料の前納」2026年9月4日更新)。
受給見込みは「自分の記録」で確認する
将来受け取る年金額がどう変わるかは、これまでの加入記録とこれからの働き方によって一人ひとり異なるため、一般的な試算例では判断できません。
毎年届く「ねんきん定期便」や、日本年金機構の「ねんきんネット」で、ご自身の記録にもとづく見込額を確認することが出発点になります。
判断材料としては、今の見込額と、厚生年金保険に加入しない期間が生じた場合の見込額の両方を把握しておくと比較がしやすくなります。
上乗せの制度は、上限額が見直される時期にある
国民年金の第1号被保険者には、将来の受け取りを上乗せするための制度として、付加年金、国民年金基金、個人型確定拠出年金(iDeCo)が用意されています。
これらは併用の可否や掛金の上限が制度ごとに定められており、組み合わせによって制限がかかる場合があります。
なお、これらのうち国民年金基金とiDeCoの掛金は、所得税の計算で小規模企業共済等掛金控除の対象とされています(出典:国税庁「タックスアンサー No.1135 小規模企業共済等掛金控除」令和8年4月1日現在法令等)。
そのうえで2026年の時点で押さえておきたいのが、上限額そのものが見直される予定にあることです。
厚生労働省は、2025年の年金制度改正について、2026年12月1日施行予定の項目として「iDeCoの加入可能年齢の引上げ」および「iDeCo・企業型DC・国民年金基金の拠出限度額の引上げ」を挙げています(出典:厚生労働省「2025年の制度改正」2026年9月12日確認)。
上限額を前提に資金計画を立てる場合は、いつの時点の上限額なのかを確かめてから判断することをおすすめします。
在職老齢年金は60歳以降に確認する論点
年金の話題では「働くと年金が減る」という言い方を目にすることがあります。
これは在職老齢年金と呼ばれる仕組みで、老齢厚生年金を受けながら厚生年金保険に加入して働く場合に、年金額の一部または全部が支給停止されるものです。
加えて、日本年金機構は70歳以降についても次のように案内しています。
平成19年4月以降に70歳に達した方が、70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務されている場合は、厚生年金保険の被保険者ではありませんが、在職による支給停止が行われます。
(出典:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」2026年4月1日更新)
つまり、厚生年金保険の被保険者であるかどうかだけで対象が決まるわけではありません。
50代のうちは老齢厚生年金を受けていないことが通常ですので、この仕組みを実際に確認することになるのは60歳以降です。
そのうえで、60歳以降に法人を設立して役員として厚生年金保険に加入する場合や、70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務する場合は、受け取る年金額に関わってきます。
税金は「いつ・何を」払うことになるのか
4つの箱のうち、準備段階で最も視野から外れやすいのが税金です。
金額の大きさというより、支払う時期が会社員のときとずれることが理由です。
ここでは、起業によって何がどう変わるのかを3つに絞って整理します。
源泉徴収から確定申告へ
会社にお勤めの間、所得税は給与から源泉徴収され、年末調整で精算されています。
個人事業主になると、原則として1年間の所得を自分で計算し、確定申告によって納めることになるため、納税のタイミングと手続きの主体が変わります。
なお、所得税の制度そのものは改正が続いています。
国税庁は、令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の引上げについて、令和8年12月1日施行、令和8年分以後の所得税に適用されるとしています(出典:国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」令和8年5月)。
具体的な申告の方法やご自身の場合の税額については、税理士へのご確認をおすすめします。
退職した年と、その翌年の住民税
総務省は、個人住民税について前年中の所得に対して課税されるものとし、市町村が納税者に直接納税通知書を送付する普通徴収と、給与支払者が給与から天引きして納める特別徴収があると説明しています(出典:総務省「個人住民税」2026年9月12日確認)。
会社員の方は特別徴収で納めていますが、退職すると、その時点で残っている税額の扱いが変わります。
この扱いは、退職した時期によって分かれます。
東京都主税局は、6月1日から12月31日までに退職した場合について「特別徴収できなくなる残りの税額は、普通徴収に切り替えることになり、従業員(納税義務者)から直接納付していただきます」としたうえで、「従業員(納税義務者)から特別徴収の方法で徴収されたい旨の申し出があった場合は、未徴収税額を給与や退職金等から一括して特別徴収してください」と案内しています(出典:東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」2026年9月12日確認)。
1月1日から4月30日までに退職した場合については、「元の勤務先から5月31日までに支給される給与、退職金等が残りの税額を超える場合には、従業員(納税義務者)の申し出がなくても5月31日までに支給される給与や退職金等から、一括して特別徴収してください」としています(出典:同上)。
同局は、この場合について「(死亡退職の場合や、一括徴収すべき金額が退職手当等の金額を超える場合は、この限りではありません。)」とも示しています(出典:同上)。
つまり、退職すれば必ず普通徴収になるというものではなく、退職した時期と本人の申出によって分かれます。
年度末に退職される場合は、最後の給与や退職金からまとめて差し引かれることが原則の扱いになるため、手元に残る金額が想定と変わることがあります。
そのうえで翌年には、会社員として働いていた年の所得にもとづく住民税を、収入が不安定な起業直後に納めるという状況が生じます。
手続きの案内のしかたは自治体によって異なりますので、お住まいの市区町村と退職される勤務先にご確認ください。
住民税の徴収のしくみそのものについては、副業の文脈で住民税の「特別徴収」で副業がバレる仕組みとして詳しく整理しています。
青色申告という制度の位置づけ
個人事業主の確定申告には、青色申告と白色申告があります。
国税庁は、青色申告特別控除について、正規の簿記の原則により記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して期限内に提出する場合に最高55万円、これに加えて優良な電子帳簿の保存またはe-Taxによる電子申告を行う場合に最高65万円、それ以外の青色申告者は最高10万円としています(出典:国税庁「タックスアンサー No.2070 青色申告制度」令和8年4月1日現在法令等)。
つまり、記帳の方法と提出のしかたによって控除額が変わる仕組みです。
ただし、この控除を受けるには、あらかじめ承認の申請をしておく必要があります。
同庁は、新たに青色申告の申請をする方について「青色申告をしようとする年の3月15日までに『青色申告承認申請書』を納税地の所轄税務署長に提出してください」としており、その年の1月16日以後に新規に業務を開始した場合には「業務を開始した日から2か月以内に『青色申告承認申請書』を納税地の所轄税務署長に提出してください」としています(出典:同上)。
開業した月によって期限の数え方が変わるため、どの水準の記帳を自分で行うのかを決める段階で、ご自身の場合の申請期限もあわせて確認しておくことが大切です。
退職時に受け取るお金と、使える給付の考え方
退職のタイミングでは、出ていくお金だけでなく入ってくるお金もあります。
退職金と、雇用保険から支給される可能性のある給付です。
この2つは性質がまったく違うため、分けて考える必要があります。
退職金は「二重の役割」を持っている
退職金は、事業資金としてまとまった金額が使える点で50代の起業における大きな要素であり、同時に老後の生活を支える資金でもあります。
つまり、一つのお金が二つの役割を背負っている状態です。
ここで意識しておきたいのは、事業に回した分は老後資金から差し引かれているという当たり前の事実です。
事業が動き出すと「あと少し足せば」という判断が続きやすくなるため、投じてよい上限額と見直しを判断する時期を、始める前に決めておくことに意味があります。
早期退職から起業へ進む場合に注意したい点は、早期退職して起業する時に絶対にしてはいけない5つのポイントで整理しています。
雇用保険の基本手当と「起業」の関係
退職すると雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)を思い浮かべる方が多いのですが、これは「仕事をしていない期間に支給されるお金」ではありません。
ハローワークは、基本手当の支給要件について次のように案内しています。
ハローワークに来所し、求職の申込みを行って、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること
(出典:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」2026年9月12日確認)
あわせて、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上あることが要件とされています(特定受給資格者または特定理由離職者については、離職の日以前1年間に通算6か月以上)(出典:同上)。
起業を前提に退職される場合、この「失業の状態」に当たるかどうかが論点になります。
事業の準備をどの段階から行っているか、いつ事業を開始したかによって扱いが変わるため、退職前にハローワークで確認しておくことをおすすめします。
事業を開始した場合の再就職手当
もう一つ、起業との関係で押さえておきたいのが再就職手当です。
ハローワークのリーフレットには、次のように記載されています。
再就職手当とは、雇用保険受給資格者のみなさまが基本手当の受給資格の決定を受けた後に早期に安定した職業に就き、又は事業を開始した場合に支給することにより、より早期の再就職を促進するための制度です。
(出典:厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)・地方運輸局「再就職手当のご案内」リーフレット LL080801保02)
つまり、再就職手当は事業を開始した場合も対象になり得る制度として案内されています。
ただし支給要件が定められており、待期期間の満了後に事業を開始したこと、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あることなどが含まれます(出典:同上)。
同リーフレットは支給要件の一つを「原則として、雇用保険の被保険者になっていること」としていますが、事業を開始した場合はこの「原則」の例外にあたります。
厚生労働省の業務取扱要領は、事業を開始した場合の再就職手当について、その事業により当該受給資格者が自立することができると認めたものに限るとしています(出典:厚生労働省職業安定局雇用保険課「業務取扱要領 57001-58000 雇用保険給付関係(就職促進給付)」57052)。
自立できると認められるかどうかは、事業の実在が登記事項証明書等で確認できるか、独立開業できる程度の資格や技能を有しているか、一定の経費を要したか、といった点から判断されるとされています(出典:同上)。
そして、自己都合退職などで給付制限を受ける場合には、事業を開始する時期そのものが関わってきます。
同リーフレットは支給要件の一つとして、給付制限がある方は待期期間満了後1か月の期間内はハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであることを挙げており、業務取扱要領はこの要件を次のように定めています。
受給資格に係る離職について法第33条の給付制限(給付制限期間の長短を問わない。)を受けた場合において、待期期間の満了後1か月間については、安定所又は職業紹介事業者の紹介により職業に就いたこと(事業を開始したことはこれに含まれない。)
(出典:厚生労働省職業安定局雇用保険課「業務取扱要領 57001-58000 雇用保険給付関係(就職促進給付)」57052)
つまり、給付制限を受ける場合には、待期期間の満了後1か月について事業の開始が除かれる扱いが定められており、いつ事業を開始するかが支給の可否に関わってきます。
支給されるかどうかはハローワークが個別に判断するため、「起業すれば受け取れる」という理解で資金計画を立てることは避け、起業の日取りを決める前に、ご自身が給付制限の対象になるかどうかを含めてご確認ください。
外から資金を入れる方法——融資・補助金・支援金
手元の資金で足りない部分をどう埋めるかを考えるとき、選択肢は大きく分けて2種類あります。
返すものと、返さないものです。
この2つは、申し込む先も、お金が手元に届く時期も違います。
融資と補助金は、そもそも性質が違う
融資は、借りて返すお金です。
日本政策金融公庫には、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした「新規開業・スタートアップ支援資金」という制度があり、資金の使いみちは新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金とされています(出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」2026年9月12日確認)。
いずれの融資制度も対象や条件が定められているため、利用できるかどうかは個別に確認することになります。
一方、補助金は原則として返済の必要がありません。
ただし、多くの補助金は先に事業者が支出し、後から審査を経て交付される仕組みであり、申請すれば採択されるというものでもありません。
補助金を当てにして開業直後の資金繰りを組むことには、無理が生じやすくなります。
「助成金」という言葉の使われ方
インターネット上では、補助金と助成金がほぼ同じ意味で使われていることがあります。
ここで気をつけたいのは、名称だけでは所管や対象を見分けられないという点です。
厚生労働省が案内している雇用関係助成金は、「事業主の方のための」助成金として位置づけられており、労働者の雇用に関する取組みを対象とするものです(出典:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」2026年9月12日確認)。
つまり、この雇用関係助成金は、人を雇っていない段階の個人事業主が開業資金として使えるものではありません。
一方で、自治体などが「助成金」「助成事業」という名称で、創業初期の経費を対象とする制度を設けていることもあります。
また、開業や販路開拓を対象とする補助金は、経済産業省・中小企業庁などが所管しています。
中小企業庁が運営する「ミラサポplus」では、補助金・助成金の情報を探すことができます(出典:中小企業庁「ミラサポplus」2026年9月12日確認)。
「返済不要のお金」とまとめられていても中身は別の制度ですので、調べるときはどの機関が実施する、誰を対象とした、何の経費を対象とする制度なのかを公募要領でご確認ください。
公募には年度と期間がある
補助金を検討するうえで、最も実務的に重要なのが時点です。
多くの補助金は年度ごとに公募が行われ、公募期間が定められているうえ、要件や補助率も年度によって変わることがあります。
そのため、「こういう補助金がある」という情報を見つけたら、その年度の公募要領が出ているか、公募期間内かを必ずご確認ください。
過去の年度の情報がそのまま残っている解説記事も少なくありません。
配偶者の扶養に入ったまま起業を考える場合
小さく始めたい方から多く寄せられるのが、扶養の範囲に関する疑問です。
ここで押さえておきたいのは、「扶養」と呼ばれているものが実際には2つあるという点です。
税の扶養と、社会保険の被扶養は、別々の制度として運用されています。
税の扶養と社会保険の被扶養は別の制度
2つの違いを整理すると、次のようになります。
| 税の扶養 | 社会保険の被扶養 | |
|---|---|---|
| 関係する制度 | 所得税・個人住民税 | 健康保険・国民年金 |
| 確認する先 | 国税庁・お住まいの市区町村 | ご家族が加入する健康保険の保険者 |
| 判定の土台 | その年の合計所得金額 | これからの年間の見込み収入 |
判定の土台が「所得」と「収入」で違う点が、混乱のもとになります。
個人事業主の場合、売上から経費を差し引いた額が所得になりますが、社会保険の被扶養の判定で経費をどこまで差し引けるかは、加入する健康保険によって取扱いが異なることがあります。
一方の制度で確認した基準を、そのままもう一方に当てはめることはできません。
判断の前に確認しておきたいこと
扶養の範囲内で起業を考えている方は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- ご家族が加入している健康保険の保険者に、被扶養者の収入の考え方を確認する
- 所得税・住民税の扱いを、国税庁やお住まいの市区町村の案内で確認する
- その両方を踏まえて、事業の規模をどう設定するかを考える
扶養内での起業について具体的な注意点は、扶養内で起業したい方へ|個人事業主で扶養に入る場合の注意点で整理しています。
お金の面で失敗しやすいパターンと回避策
ここまで見てきた内容を踏まえて、お金の面でつまずきやすい形を3つ挙げます。
いずれも特別な失敗ではなく、順番の問題で起きやすいものです。
準備の段階で手を打てるものばかりですので、当てはまるものがないか確認してみてください。
生活費と事業資金を一つの口座で回してしまう
開業直後は、支出の種類が急に増えます。
家計と事業のお金が同じ口座を通ると、事業が黒字なのか赤字なのかが見えなくなります。
事業用の口座を分けておくと、記帳の手間も減り、撤退の判断もしやすくなります。
収入がない期間の長さを見込んでいない
事業からの収入が生活費をまかなえるようになるまでの期間は、当初の想定より長くなることがあります。
このとき、開業費用を厚くした分だけ生活費の余力が減っている、という状態になりやすいのが難しいところです。
開業費用と生活費は、はじめから別の数字として管理することをおすすめします。
社会保険料と住民税を計算に入れていない
退職の翌日から健康保険料と国民年金保険料が発生し、住民税は退職の時期に応じた扱いを経て、翌年には会社員時代の所得にもとづく額が届きます。
この2つを生活費の見積もりに入れていないと、事業が想定どおりに進んでいても資金が足りなくなることがあります。
よくあるご質問
50代の起業とお金について、検索で多く見られる疑問を4つ取り上げます。
いずれも一律の答えがないものばかりです。
そのため、どこで確認すればよいかという手がかりをあわせてお伝えします。
Q. 50代の起業には、いくら貯金があれば始められますか
一律の基準はなく、必要な金額は選ぶ業種と、事業が軌道に乗るまでの生活費をどれくらいの期間まかなうかによって大きく変わります。
公表されている調査の平均値や中央値は目安になりますが、融資を受けた企業を対象とした数字であるなど、調査ごとに対象の範囲が異なります。
まずはご自身の月々の固定支出を洗い出し、何か月分を確保できるかという形で考えてみてはいかがでしょうか。
Q. 退職後の健康保険は、任意継続と国民健康保険のどちらが負担が軽くなりますか
これは個別の状況によって変わるため、一般論では決められません。
任意継続は退職時の報酬(標準報酬月額に上限あり)、国民健康保険は前年の所得と世帯の状況が土台になるうえ、国民健康保険の算定方法は市町村ごとに定められており、扶養しているご家族の人数によっても結果が変わります。
加入していた健康保険の保険者と、お住まいの市区町村の両方で試算方法を確認したうえで比べることをおすすめします。
Q. 開業届を出すと、雇用保険の基本手当は受けられなくなりますか
基本手当は「失業の状態」にあることが要件とされているため、事業の開始や準備の状況によって扱いが変わり、どの時点からどのように扱われるかはハローワークが個別に判断します。
退職前や求職の申込みの段階で、起業を検討していることを含めて確認しておくと、後から困る場面を減らせます。
また、事業を開始した場合には再就職手当の対象になり得る制度もありますが、給付制限を受ける場合には待期期間の満了後1か月の扱いが定められているため、事業を開始する時期とあわせてご確認ください。
Q. 起業するなら、最初から法人にしたほうがよいのでしょうか
個人事業と法人では、税金や社会保険の扱いが異なります。
どちらが適しているかは、事業の規模、取引先の性質、社会保険の入り方など複数の観点から判断することになり、お金の観点だけで決められるものではありません。
本記事では論点の存在をお伝えするにとどめます。
まとめ
50代の起業とお金について、4つの分類にそって整理してきました。
主要なポイントは以下のとおりです。
- 起業で動くお金は、①事業に出ていくお金、②手取りに関わるお金、③負担のしかたが変わるお金、④外から入れられるお金の4つに分けると見通しが立つ
- 開業費用の「平均○○万円」は、誰を対象にした調査かを確かめてから自分の数字に翻訳する
- 税金や社会保険料は交渉で下げられないが、控除・免除・前納割引・加入先の選択など、要件を満たす場合に負担が変わる仕組みは用意されている
- 健康保険の3つの選択肢は、保険料の土台になるもの(退職時の報酬・前年の所得・これからの見込み収入)がそれぞれ違い、任意継続の算定には上限がある
- 国民年金保険料は定額で世帯2人分になる場合があるが、配偶者が会社員等の場合は第3号被保険者に該当することもある
- 退職後の住民税は、退職した時期と本人の申出によって普通徴収と一括徴収に分かれ、翌年には会社員時代の所得にもとづく額が届く
- 雇用保険の再就職手当は事業の開始も対象になり得るが、給付制限を受ける場合は事業を開始する時期が関わる
- 「返済不要のお金」とまとめられている制度も、名称ではなく実施する機関・対象者・対象経費で確認する
まずは、ご自身の月々の固定支出と、退職後に新たに発生する保険料を書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。
数字が並ぶと、次に何を調べればよいのかが見えやすくなります。
※本記事は2026年9月時点の制度にもとづいて作成しています。
※制度の内容や金額は改正されることがあるため、最新の情報は各制度を所管する機関の公式サイト等でご確認ください。
※個別の税務については税理士、社会保険の手続きについては社会保険労務士など、それぞれの専門家へのご確認をおすすめします。

