
目次
はじめに
以前、起業の準備をされている(私と同年代の)女性のお客様と、打ち合わせの合間にお茶を飲んでいたときのことです。
ふと、その方がこう仰いました。
「先生、『おばさん起業』って言葉、聞いたことありますか? あれって、どう思います?」
私は「おばさん起業」という言葉を初めて聞いたということもありますが、その場ではうまく答えられませんでした。
事務所に戻ってから「おばさん起業」というキーワードの検索数を調べたら、思ったよりも多かったので驚きました。
「おばさん起業」と検索される方は、50代後半から60代の女性、または40代後半でセカンドキャリアをご検討中の方が多いのではないかと思います。
「もう遅いのでは」「私の年齢で今さら始めても」と感じながらも、起業の可能性を探っている方の率直な検索行動とも言えます。
本記事では、年齢への戸惑いに寄り添いながら、50代60代の女性が無理なく始められる起業の3つの方向性、活用できる公的支援制度、失敗しないための注意点をわかりやすく説明しますしたいと思います。
最後に、今日から始められる小さな一歩までご案内します。
なぜ「おばさん起業」と検索する方が多いのか

「おばさん起業」という検索ワードの背景には、年齢に対する戸惑いと、それでも何かを始めたいという前向きな気持ちが混在していることがあるのではなないかと思います。
なぜこのワードで検索されるのか、その心理的背景と社会的な傾向について考えてみたいと思います。
「おばさん」という言葉に込められた戸惑い
「おばさん」という言葉って、ちょっときつい感じがしますよね。
複雑な感情を抱く方も多いのではないでしょうか。
冒頭でも書いたように、私自身「おばさん起業」というワードでの検索数が多のは驚きました。
50代を過ぎ、子育てや仕事で一区切りついた頃に、ふと「この年からでも何かできるだろうか」と感じる瞬間。
そんなときに、自虐的にも前向きにも使える言葉として「おばさん起業」というキーワードが浮かんでくるのかもしれません。
ご自身を「おばさん」と呼ぶことに抵抗を感じつつも、「シニア女性の起業」というのは、ちょっと違う気がする。
そんな気持ちが、この検索ワードに表れているのかもしれません。
50代以上の起業は実は増加傾向

データの上でも、50代以上で起業を始める方は決して少数派ではありません。
帝国データバンクの「2024年『新設法人』動向調査」(2025年5月公表)によると、2024年に新設された法人の代表者平均年齢は48.4歳と4年連続で上昇し、2000年以降で最高齢を更新しました。
年代別では50代が25.2%(20年ぶりの高水準)、60歳以上が18.6%(過去最高)を占めています。
20代以下や30代の起業が縮小する一方、シニア層・早期リタイア層の起業割合が拡大傾向にあります(※新設法人の代表者全体に関する統計で、性別を問わない数値)。
また、内閣府「令和6年度年次経済財政報告」の分析でも、全産業ベースで起業年齢のピークが2017年の60代から2022年の50代へと若返り、シニア層の起業が拡大傾向にあることが指摘されています。
「あなただけが特別に遅い」わけではないという認識が、まずは出発点になります。
50〜60代女性が考えるべき「3つの方向性」

「起業」と一言で言っても、その形は大きく分かれます。
「会社を作る」ことだけが起業ではありません。
ご自身の状況や目指す規模感によって、選ぶべき方向性が変わってきます。
ここでは代表的な3つの方向性を整理します。
まず、3つの方向性の概要を一覧で確認します。
| 選択肢 | 設立コスト | 運営の難易度 | 向いている方 |
|---|---|---|---|
| A. 個人事業の開業 | 低い(開業届のみ) | 低〜中 | 趣味・スキルを活かして小さく始めたい方 |
| B. 法人設立 | 中〜高 | 中〜高 | 取引拡大・信用構築が必要な方 |
| C. NPO法人・ボランティア | 中(NPO法人)/低(ボランティア) | 中 | 収益より社会貢献を優先したい方 |
【選択肢A】 個人事業の開業(自分のスキル・趣味を活かす)

50代60代の女性が最も始めやすいのが、個人事業の開業です。
税務上の入口としては税務署への開業届の提出が基本で、初期費用や運営コストを抑えられるのが特徴です(青色申告承認申請、インボイス登録、給与支払事務所等の開設届などは、必要に応じて別途手続きが必要です)。
典型的な事業例としては、ハンドメイド販売、Webライティング、オンライン講師、家事代行、シニア向けサポート、料理教室などが挙げられます。
これまでの経験や趣味を活かしやすく、軌道に乗ってから法人化を検討する流れも選択肢の一つです。
小さく始めて続けるという考え方については、スモールビジネスとは?40〜50代から始める小さな起業も合わせてご覧ください。
【選択肢B】 法人設立(本格的にビジネスを展開する)
最初から法人(株式会社・合同会社など)を設立する選択肢もあります。
取引先からの信用力が必要なケースや、複数名で本格的にビジネスを展開したい場合には、法人化のメリットが大きくなります。
ただし、法人設立には登記費用や、設立後の社会保険・税務処理の負担も生じます。
50代60代でいきなり法人を立ち上げると、運営コストが想定以上に重くなるケースもあるため、慎重な判断が必要です。
個人事業から始めて、収益が安定してから法人化を検討する流れの方が、リスクを抑えやすい場合が多いと言えます。
【選択肢C】非営利・社会貢献ベース(NPO法人・ボランティア)
収益を主目的とせず、社会貢献を中心に据えた活動も「広い意味での起業」と考えられます。
NPO法人として立ち上げる方法と、ボランティア団体として活動する方法があります。
NPO法人は、特定非営利活動促進法に基づいて設立される法人で、職員への給与支払いも認められています。
ただし、社員(構成員)への利益分配は不可であり、役員報酬を受けられる役員は役員総数の3分の1以下に制限されている点が、株式会社などの営利法人とは異なります。
ボランティア活動は、もう少し気軽に社会との接点を持ちたい方に向いています。
それぞれの違いについては、NPO法人とは|非営利でも給料はもらえるの?、シニアボランティアとは|活動の種類や楽しみ方で詳しく解説しています。
始める前にチェックしたい5つのポイント

起業の方向性が見えてきたら、次は「ご自身に無理なく続けられるか」を冷静に見つめる段階です。
50代60代だからこそ意識しておきたい、5つのチェックポイントを整理します。
体力・時間との相性
20代30代の起業と比べて、40〜60代の起業では体力的な無理が利きにくくなるケースが多いです。
1日8時間以上の作業を毎日続けるような働き方ではなく、1日3〜5時間程度から始められる事業設計が望ましいと考えられます。
家族・家計との相性
ご家族(配偶者やお子さま、親世代の介護など)との生活リズムや家計への影響を整理しておくことが大切です。
最初の半年〜1年は収入が安定しないケースも多いため、生活費とは別に運転資金を確保しておくと安心です。
スキル・経験との相性
これまでの仕事・家事・趣味で培ったスキルが、どの事業に活かせるかを棚卸しすることが、最初の事業選びの鍵となります。
「何もスキルがない」と感じる方でも、長年の主婦業や子育て経験そのものが、家事代行・シニアサポート・教育系サービスの土台になるケースは多いです。
健康状態と継続性
40〜60代では、ご自身の健康状態・体力の変化を前提に事業設計する必要があります。
「無理をしないと回らない事業」は、長く続けにくくなります。健康面で気になることがある場合は、医療面の判断は主治医にご相談いただきつつ、事業設計は無理のないペースで考えるのがおすすめです。
リスク許容度(資金面・心理面)
「失敗してもこの範囲なら受け入れられる」というラインを、最初に決めておくことをおすすめします。
資金面で言えば、生活費とは別に「失っても困らない範囲の自己資金」で始めるのが基本です。
心理面でも、「うまくいかなければやめる選択肢を残す」ことが、無理なく続ける土台になります。
「おばさん起業」で50代60代女性が陥りやすい5つの失敗

起業の失敗パターンは年代を問わず多くありますが、50代60代の女性が特に陥りやすいパターンも存在します。
事前に知っておくことで、回避しやすくなります。
【失敗1】「キラキラ起業」の罠(高額セミナー・コンサルへの過剰投資)
SNSなどで「月収100万円」「自由なライフスタイル」を全面に出した起業塾やコンサルが目立ちます。
高額な受講料を払った後で、結局自分の事業として続かなかったというケースも少なくありません。
「派手な成功例」を強調する勧誘には、慎重に距離を置く姿勢が大切です。
【失敗2】女性向け起業セミナーの怪しい誘導
女性向け・主婦向け・シニア向けと銘打った起業セミナーの中には、高額商品の販売や、別のセミナーへの誘導を目的としたものも見られます。
起業セミナーに関しましては『女性起業セミナーは怪しい?』でも詳しく説明していますので、ご参照ください。
【失敗3】人脈づくりへの焦り
起業を意識すると「人脈を広げなければ」と焦ってしまう方が多いのですが、目的が曖昧なまま交流会に参加し続けると、時間と費用ばかりが消費されてしまいます。
人脈は事業の延長線上で自然に広がるものという考え方もあります。
詳しくは人脈のない人の特徴とは?で解説しています。
【失敗4】いきなり法人化して経費負担が重くなる
「起業=会社を作る」というイメージで、最初から株式会社を設立してしまうケースです。
設立費用に加えて、毎年の法人住民税(均等割)や社会保険料の負担が、軌道に乗る前の事業を圧迫することがあります。
個人事業の開業から始め、収益が安定してから法人化を検討する流れの方が、現実的な選択肢になることが多いです。
「起業したら、これは買うべき」のように思い込みにとらわれずに、「これは絶対に必要」という必要最低限のものだけ買うようにして始められるのが良いと思います。
【失敗5】家族の理解を得ずに独走する
配偶者やお子さま、親御さまなどご家族の理解を得ずに進めると、後々の関係性に影響が出るケースがあります。
最初に「どんな目的で、どの程度の規模で、どのくらいの期間試したいのか」をご家族と共有しておくことが、長く続けるための土台になります。
ご家族も納得の上、応援してもらえるように話し合いましょう。
活用できる公的支援制度

50代60代の女性が起業を検討する際、公的な支援制度を活用できる場面があります。
代表的なものを2つご紹介しますが、いずれも要件や金額は年度により変更されることがあるため、申請を検討される際は必ず最新の公式情報をご確認ください(本記事の記述は2026年5月時点の情報に基づきます)。
小規模事業者持続化補助金
中小企業庁が所管する「小規模事業者持続化補助金」は、販路開拓や業務改善に取り組む小規模事業者を対象とした補助金制度です。
2026年度も制度が継続されており、「一般型(通常枠)」と創業期向けの「創業型」、「共同・協業型」、「ビジネスコミュニティ型」の4類型に分かれています。
2026年5月時点では、直近の公募(一般型第19回・創業型第3回)は2026年4月30日で締切済です。
次回(第20回以降)の公募スケジュールは、公式サイトでご確認ください。
創業型は補助上限額が一般型より大きい一方、商工会・商工会議所の支援を受けながら経営計画を策定することや、「特定創業支援等事業」による支援を受けた証明書の提出などの要件があります。
採択には審査があり、すべての申請が通るわけではない点にご留意ください。
日本政策金融公庫の創業支援融資
もう一つは金融機関からの融資です。
小規模事業者持続化補助金は「原則返さなくてよいお金」ですが、日本政策金融公庫の創業支援融資は「返済が必要な借入」です。
私個人的には融資を受けて始めるのはリスクもあるので、出来るだけ手元の資金で始められる範囲で始めることをおすすめしますが、融資を受けてやりたいことがあるという方もいらっしゃると思いますので、ここでご紹介します。
日本政策金融公庫には、女性・若者・シニアを対象とした融資制度として「新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」があります。
女性(年齢不問)、35歳未満の若者、55歳以上のシニアで、新規開業しておおむね7年以内の方が対象です。
通常の融資よりも有利な特別利率が適用される点が特徴で、国民生活事業の融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)とされています。
なお、以前あった「新創業融資制度」は2024年3月に終了し、現在は別の制度なっています。
融資には審査があり、申請すれば必ず通るものではない点にもご留意ください。
なお、補助金・融資の申請書類の作成支援は、税務分野は税理士、登記分野は司法書士など、業務領域ごとに担当する専門家が異なります。
個別の手続きをご検討の場合は、適切な専門家にご確認ください。
今日から始められる小さな一歩

「起業について調べた」だけで終わってしまうと、なかなか前に進めません。
いきなり大きく始める必要はなく、小さく試すことから始められます。
今日からできる3つのステップをご紹介します。
ステップ1 これまでの経験を棚卸ししてみる
最初の一歩は、ご自身の経験・スキル・関心の棚卸しです。
仕事・家事・育児・趣味・地域活動などで、人に教えられること、続けていて苦にならないこと、誰かに「ありがとう」と言われたことを書き出してみましょう。
ノート1ページ、30分程度で十分です。
「自分には何もない」と感じる方ほど、棚卸しの効果が大きいケースが多いです。
ステップ2 同業者・類似事業者の発信を見てみる
棚卸しでいくつか方向性が見えたら、すでに同じ分野で活動している方の発信を観察します。
SNS、ブログ、YouTubeなどで、どんな人がどんな価値を提供しているのか、価格帯はどのくらいか、を3〜5人分眺めてみてください。
同年代の女性で活動されている方を見つけられると、「自分にもできそう」という具体的なイメージが湧きやすくなります。
50代女性の働き方全般については、女性が50代から一生できる仕事とは?、40代スキルなしの女性でも起業できる!も合わせてご覧ください。
ステップ3 小さく試してみる(無料モニター、SNS発信、イベント出店)
大きく始める必要はなく、まずは以下のような小さなテストから始めてみてもいいでしょう(継続的に有償で事業を行う場合は、税務上の開業届の提出が必要となります)。
- 無料モニター3〜5名にサービスを試してもらう
- SNSで関連情報を発信してみる
- 地域のマルシェやイベントに1回出店してみる
反応を見ながら、改善点を整理する。
この往復が、無理なく事業を育てる土台になります。
よくあるご質問
最後に、50代・60代で起業をご検討中の方からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 60代からでも本当に間に合いますか?
「間に合うかどうか」は、何を目指すかによって変わります。
20代と同じスピードで事業を急成長させたい場合は難しいケースもありますが、自分のペースで小さく長く続ける起業であれば、60代から始めて10年以上活動されている方は多くいらっしゃいます。
年齢そのものよりも、ご自身の体力・健康・家計と相談しながら無理のない事業設計をすることが、長く続けるポイントになります。
Q. 副業として小さく始めるのは可能ですか?
会社員として勤めながら、副業として小さく始めるのは一つの現実的な選択肢です。
ただし、勤務先の就業規則で副業が禁止・制限されているケースもあるため、事前確認が必要です。
詳しくは正社員が副業を始める前に知っておきたい7つの注意点で解説しています。
Q. 早期退職して退職金で起業するのはアリですか?
退職金を全額起業に投じてしまうと、失敗した時のリスクが大きくなります。
早期退職と起業を組み合わせる場合に注意したい点を、早期退職して起業する時に絶対にしてはいけない5つのポイントで整理しています。
Q. 家族に反対されています、どうすれば?
ご家族の反対は、起業に伴うリスクへの心配が背景にあることが多いです。
「失敗しても生活が破綻しない範囲で試したい」「期限を区切って判断したい」など、具体的なリスクの範囲を示すことで、対話が進みやすくなる場合があります。
一度の話し合いで合意を得ようとせず、時間をかけて少しずつ理解を得ていく姿勢が大切です。
まとめ

本記事では、50代60代女性に向けて、起業の選択肢と進め方を整理しました。
主要なポイントは以下の通りです。
- 50代60代の起業は決して遅くなく、50代以上の起業は近年増加傾向(2024年新設法人の代表者平均年齢は48.4歳、60歳以上の割合は18.6%で過去最高)
- 選択肢は「個人事業の開業」「法人設立」「非営利・NPO」の3方向性に整理できる
- 始める前に、体力・家族・スキル・健康・リスク許容度の5点をチェック
- 「キラキラ起業」「怪しいセミナー」「人脈の焦り」など典型的な失敗パターンを知っておく
- 日本政策金融公庫の創業支援融資・小規模事業者持続化補助金などの公的支援も活用できる
- いきなり大きく始めず、棚卸し→リサーチ→小さく試す、の3ステップから
20代の起業とは異なり、50代60代の起業には「経験」「落ち着き」「家族との関わり」という独自の武器があります。
ご自身の状況に合わせて、無理のない一歩を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事は2026年5月時点の公的支援制度・統計情報に基づいて作成しています。融資・補助金の要件や金額・公募状況は年度により変更されるため、最新情報は日本政策金融公庫、中小企業庁等の公式サイトでご確認ください。個別の事案については、税務は税理士、登記は司法書士、労務は社会保険労務士など、適切な専門家にご相談いただくことを推奨します。
よこぜき行政書士事務所

